大谷翔平選手の打球でビール缶に「穴」? 48時間で商品化へ【カンヌライオンズ2024】

AI要約

2023年8月26日、大谷翔平選手が放ったファウルがデジタルサイネージに直撃し、クアーズライトがそれを活かしてリアルな缶を製造・販売。これが話題となり、広範囲に拡散した。

クアーズライトは逆境を逆手に取り、“欠損”をプラスに変えた。その行動が成功し、四角い穴あき缶は売り切れるほどの人気となった。

さらに、この事例は日本にも影響を与え、海外での広告活動がSNSで拡散された。機会を逃さずフットワーク軽く行動したことが成功の要因である。

大谷翔平選手の打球でビール缶に「穴」? 48時間で商品化へ【カンヌライオンズ2024】

2023年8月26日、当時エンゼルスに所属していた大谷翔平選手が試合中に放ったファウルが、デジタルサイネージに直撃した。クアーズライトの商品広告の一部が破損し、コアな野球ファンの間では大きな話題になった──。

カンヌライオンズ2024の話題作である「クアーズライト・アウト」は、このアクシデントを見事に活かした事例だ。米国のビール「クアーズライト」が実施したこの事例は、ブランドエクスペリアンス&アクティベーション部門ゴールド等を受賞した。

■リアルな缶を製造・販売

大谷翔平選手の大きなファールボールが直撃したのは、外野の一角に設けられていたクアーズライトのデジタルサイネージだった。その一撃は、クアーズライトの缶の左上、「Coors」の「C」の真上辺りに真四角の黒い穴をあけた。

これに対し、マーケティングや広告コミュニケーションに関わる人々であれば「困ったことだ」と感じ、その四角い穴を“欠損”だと考えるだろう。しかし、この時のクアーズライトの担当者たちは、まったく異なる行動に出る。一見してネガティブな状況を逆手に取ったのだ。

まず、ファールボール直撃から48時間以内にCoorsのCの上のところに四角い穴があいたように見えるリアルな缶を製造し、販売した。そして、通常のサイネージや屋外広告に出される缶も、この四角い穴あき缶にした。エンジェルス・スタジアムのすべての広告にこの穴あき缶を登場させ、クアーズ側が広告に穴を開けているかのようにふるまった。アクシデントで空いてしまった四角い穴を、野球ファンのメモリアル事象として、位置づけようと試みたのだ。

この四角い穴あき缶と、その缶をフィーチャーした“壊れた広告”は、一夜にして広範囲に拡散した。缶は24時間もかからずに売り切れたという。購入できなかった野球ファンはあきらめきれず、アメリカのフリマアプリ「ebay」で、70ドル(約2500円)もの値段で売り買いされるまでになった。“壊れた広告”には、オークションで7000ドル(約25万円)もの高値がついたという。

さらに、コアなファンは、普通のクアーズライト缶に自分でマジックで四角い穴らしきものを描いたり、クアーズライトTシャツの同じ位置(Cのすぐ上)に、穴に見える四角を描いたりし始めた。また、この話を聞きつけた一部の日本の方々もSNSで欲しいと発信し始め、それを知ったクアーズ側は、日本でも四角い穴あき缶を発売し、日本のニュース番組でも取り上げられた。

なお、クアーズ側が制作した事例ビデオにも“UNOFFICIAL SPORTS SPONCORSHIP”と書かれているが、大リーグ側にも大谷翔平選手個人にも、1ドルも支払っていない。大リーグや大谷翔平選手には何も迷惑や負担はかけておらず、そういう意味からしても支払う必要はないだろう。そこに登場するのは、大谷翔平選手本人ではなく、大谷翔平選手の打球で壊れた広告と、それを再現した穴あき缶だけなのだから。

それなのに、大リーグ公式ビール(ライバルであるバドワイザーを指すと思われる)よりも話題になり、“BREAKING THE MOLD OF SPORTSMARKETING WITH ONE BROKEN AD (1つの壊れた広告で、スポーツマーケティングの型を壊した)”と記している。

広告コミュニケーションの名作の中には、本件のような「フットワークの軽さ」がキーとなっているものが少なくない。机の前でウンウン唸って考え続けるのではなく、現実に起こった出来事にひょいと軽く乗っかって、大きな成果をあげるものだ。

困った状況、ネガティブな環境を、逆手に取ってみる。機会を逃さず、“フッ軽”で発想し、素早く実行する。もちろん、そのためには普段からそうした社内カルチャーの醸成を行っておくことも必要だろう。