「公務員」はAIに仕事を奪われる?それとも生き残る?AI研究者の意外な予測結果とは

AI要約

公務員の仕事とAIの相性、公務員の仕事の変化、行政手続きのデジタル化について述べられている。

AIが公務員の作業効率化にどのように貢献しているか、自治体でのAI活用の例、公務員の重要な意思決定の役割について述べられている。

公務員に残る高度な意思決定に関わる重要な仕事と、AIとの関係、幹部公務員のプレッシャーについて述べられている。

「公務員」はAIに仕事を奪われる?それとも生き残る?AI研究者の意外な予測結果とは

 人工知能(AI)の研究者であり、北海道大学大学院 情報科学研究院の教授を務める川村秀憲氏の書籍『10年後のハローワーク』(アスコム)から、要点を一部抜粋してお届けします。今回のテーマは「公務員の未来」。「行政手続きのデジタル化」などの領域において、日本は他の先進国に遅れを取っています。旧態依然としたイメージが根強い公務員ですが、その仕事の在り方は今後どう変わっていくのでしょうか――。

● 公務員の仕事とAIは 意外と相性が良い!?

 公務員、あるいは国や地方公共団体の官公署(役所)については、民間企業ではないだけに経済論理だけですべてが動くわけではなく、また、政治的な意味合いにおける意思決定にはAIでは代替しにくい、あるいはするべきではない分野が存在します。

 一方で、行政の効率化はつねに課題とされていることもあり、別の一面では案外すんなりとAIによる代替が進む部分もあると思われます。

 つまり、ひとくくりで考えるのは難しいわけです。たとえば、コロナ禍でも話題になったように、残念ながら日本の行政手続きはデジタル化において他国に遅れを取っていたのは明らかでした。また、いちいちアナログ的な手続き(窓口に並び対面で手続きする、申請や書類を紙で提出する……など)をしなければならない非合理的な部分が残されてもいます。

 手続きや申請の処理は、意思決定ではなく作業です。行政やそこで働く公務員は、原則として法令で決まっていることを、決まっているとおりに処理しなければなりません。このプロセスを効率化するためには、AIはかなり役立つでしょう。

 たとえば、東京都庁では、2023年から都議会の議事録作成に生成AIの活用を始めました。ChatGPTを開発したオープンAIによるクラウド上の生成基盤を使用しているとのことです。

● 意思のないAIには無理な 公務員ならではの仕事とは?

 AIの活用においては、機密、プライバシーの保持面からさまざまな意見が出ていますが、愛知県や名古屋市ではすでにAI活用におけるガイドラインを作成し、神戸市では条例としてAIの使用ルールを定め、2024年から実際に活用していくそうです。この過程における報告書では、市職員の96%が効率向上を実感し、従来は30分ほどかかっていた作業が数秒で終わる例もあったと言います。

 また、NTT西日本とマイクロソフトは、共同で自治体向けのDXやAIの導入を支援する協業を始めています。

 こうしたかたちでの作業の効率化は、民間同様どんどん進められるべきですし、また成功裏に進めば進むほど、人材は不要になっていくことも考えられます。

 半面、政治的な意味での意思決定に、公務員の仕事が深く関わっていることもあります。

 賃貸物件を決めるのと同様、限りある財源とさまざまな政策パッケージがある場合、結局、有権者や市民はそれぞれに利害が異なるため、AIに向くような合理的な作業ではものごとが決まりません。

 新しい公園をどこに作るか、補助金の対象を何にするか、子どもの医療費を補助すべきか、それとも高齢者福祉に使うのか……こうした選択は政治や行政の場でつねにつきまといますが、結局最後は話し合いなどのプロセスで意思決定するしかありません。こうした「町と人の生活を作る」作業は、意思のないAIには無理なのです。

 従って役所では、作業は今後も比較的スピーディーにAIなどによって効率化され、私たちもその恩恵をわかりやすく実感するタイミングが来るでしょう。

 一方で、公務員に残されるのは、高度な意思決定に関係する重要な仕事となります。もしかすると、公務員個人の本音としては、あちらを立てればこちらが立たないような話をうまくAIがまとめてくれたら角が立たずに助かるのかもしれませんが、その期待はしないほうがよさそうです。

 ゆえに、今後も幹部の公務員には、重いプレッシャーがかかり続けると予想されます。AIの「侵食」を受けないのはうらやましいと思うかもしれませんが、それはそれで大変な役割が、かえってクローズアップされることにもなります。