インド洋の廃棄漁網を自動車部品に 欧州メーカー、規制強化を背景に売り込み

AI要約

欧州の化学メーカー「エンバリオ」が漁網リサイクルプロジェクトを推進し、自動車部品に再利用している。

エンバリオは漁網を回収し、再生プラスチック材料として活用。地元雇用の創出にも取り組んでいる。

エンバリオはプラスチックの強度向上に取り組みながら、自動車部品への採用を広げている。

インド洋の廃棄漁網を自動車部品に 欧州メーカー、規制強化を背景に売り込み

使われなくなった漁網をリサイクルして自動車部品に使おうとする取り組みに、欧州の化学メーカー「エンバリオ」が取り組んでいる。海に捨てられた漁網など漁業由来のプラスチックごみは「ゴーストギア(漁具の幽霊)」と呼ばれ、海洋生物に巻き付くなどして生態系にダメージを与えていることが問題視されている。欧州では、自動車に使われるプラスチックへの規制を強化する議論が加速している。規制強化を背景に、日本の自動車メーカーに採用への働きかけを強めたい考えだ。

取り組んでいるのは、ドイツに本拠を置く化学メーカー「エンバリオ」。オランダの「DSM」とドイツの「ランクセス」という2つの化学メーカーの樹脂部門が合併して2023年に設立された会社だ。高性能なプラスチック材料の供給に強みを持つ。

漁網は主にナイロンでできており、エンバリオはインド西海岸で廃棄される漁網を回収。インド西部のプネにある工場で洗浄し、粒状のプラスチック材料として再生させている。漁民が海に漁網を捨てないよう、回収する漁網には対価を支払う。また、漁網の回収や洗浄の工程を地元の住民に担ってもらうことで、地元の雇用の創出にも取り組んでいるという。

この再生プラスチック材料の最終製品への採用は当初、サーフボードや時計のバンドなどから始まり、オフィスチェアなどに拡大していった。2022年にはサムスンが高性能スマートフォン「Galaxy S22」シリーズに採用している。

とはいえ、石油からナイロンをつくる場合に比べてコストがかかる。また、耐久性や耐摩耗性といった性能の面でも劣り、「用途を選ぶ材料であることは間違いない」(エンバリオの高雄良平副社長)。エンバリオは、「弱点」である耐久性や耐摩耗性を高める技術を磨きつつ、取引先企業と最終製品の開発段階から議論を重ねて仕様や求められる性能を詰めていくことに強みがあるという。

自動車分野でもすでに実績があり、フォード・モーターのSUV「ブロンコ」で、配線を留めるクリップとして使われている。

しかし、自動車分野への本格的な進出へ向けたハードルは多い。自動車の部品には一般的に、高い耐久性や不純物の少ない安定した品質、長期の安定的な供給が求められるからだ。そのため現在、自動車に使われているのは、ほとんどが天然素材からつくられた鉄やプラスチックで、リサイクルされた鉄やプラスチックはまだごく少ない。