トヨタSDVの幕開けか? ソフトウェアでクルマの価値をアップデートする「サーキットモード」を進化型「GRヤリス」と「LBX モリゾウRR」で体感

AI要約

トヨタがリリースする「サーキットモード」は、進化型GRヤリスとレクサスLBX モリゾウRRで可能なサービスで、クルマのポテンシャルを引き出し、自分好みのスタイルでサーキットを走行できる。

サーキットモードへの設定をするためには、専用アプリをインストールし、サーバーにサーキットの位置情報を送る必要がある。サービスはスマートフォンと連携し、無料で追加できる。

メーターパネルやエンジン制御を個別に設定可能であり、サイバーパンク的な要素も含まれている。体験会ではアンチターボラグ機能などを実際に体感できる。

トヨタSDVの幕開けか? ソフトウェアでクルマの価値をアップデートする「サーキットモード」を進化型「GRヤリス」と「LBX モリゾウRR」で体感

■ トヨタがリリースする「サーキットモード」

 TOYOTA GAZOO Racingが8月2日に発表した「サーキットモード」が話題を呼んでいる。このサーキットモードは、進化型「GRヤリス」とレクサス「LBX モリゾウRR」で可能となるサービスで、クルマのポテンシャルを引き出すとともに、自分好みのスタイルでサーキットを走行できる。

 スマートフォンと連携するサービスとなっており、サービスを追加する価格は無料。サーキット走行時にスピードリミッターの上限速度の引き上げはもちろん、メーターパネルがスーパーフォーミュラ由来のノウハウを注ぎ込んだ変速タイミングの分かりやすいものとなり、さらにエンジン制御も独立してコントロールすることで、ラリー競技車などで用いられているアンチラグ制御を追加できる。さらにそれらの制御もカスタマイズでき、サーキットを自分好みのセッティングで走行できる。調整もスマートフォンから行なえるため、インターフェースも直感的で分かりやすいものとなっている。

 ハードウェアをとくに変更することなく、ソフトウェアの変更によってGRヤリスやLBX モリゾウRRに新しい機能を付加する。言わばソフトウェアでクルマの価値をアップデートしていくという、SDV(Software Defined Vehicle)的な概念を一足早く体験できるものだ。

 このサーキットモードを、モビリティリゾートもてぎの南コースで一足早く体験する機会があったので、要素ごとにお届けしていく。

■ サーキットモードへの設定

 まずは、サーキットモードへの設定について。サーキットモードに変更することは、サーキットモード専用アプリをスマートフォンにインストールし、GRヤリスならT-Connect、LBX モリゾウRRならG-Linkと契約していることが前提になる。サーキットモードでは、スピードリミッター上限速度引き上げなどを行なうため、サーキットの位置情報をサーバーに送る必要があり、クルマがDCM(Data Communication Module)でデータセンターと通信できる必要がある。

 記事後半に対応サーキットを列挙しておいたが、サーキット内のあるエリアに入ったことを認識すると、サーキットモードへの移行が可能となる。これには、クルマのGPSとスマートフォンのGPSをハイブリッドで使っており、サーキットも国際レーシングコースだけでなく、サーキット内にあるミニサーキット(富士のショートコース)なども可能となっており、実際、今回の試乗ももてぎの南コースを使用した。

■ サーキットモードへ移行するとメーターパネルがサーキットモードに

 サーキットモードアプリで、サーキットモードへの移行を承諾すると、その意思がスマートフォン経由でサーバーに送られ、サーバーからDCMを介してクルマに情報が届き、サーキットモードにすることを理解する。

 サーバーに送るため若干のタイムラグはあるものの、サーキットモードになるとメーターパネル中央部に「CIRCUIT Mode ON」と表示され、メーターパネルのグラフィックスもサーキットモード専用のものに変更される。

 変更されたサーキットモード表示では、上部にセグメント式のシフトチェンジインジケータが表示され、エンジン回転数も6681r/minのように一桁単位表示に。回転数の更新も早く、0.05秒単位に変化していくとのこと。このタコメーターの精密感が高く、見ているだけでうれしい部分だ。

■ 4000rpmから7000rpmまで、100rpm単位で設定可能なシフトチェンジインジケータ

 このシフトチェンジインジケータは、GRヤリスの開発ドライバーであるモリゾウ選手や大島選手、佐々木選手や石浦監督のデザイン意図が反映されており、スーパーフォーミュラのフォーミュラマシンで採用されている機能デザインとなっている。

 通常のGRヤリスでは円形のタコメーターや、横バー式のタコメーターが表示され、回転数を知ることができる。ただ、シフトタイミングを正確に読み取るのは難しく、だいたいこのあたりと使っている人が多いだろう。

 ところがこのスーパーフォーミュラを参考に開発されたシフトチェンジインジケータは、インジケータが両側から中央に向かい、緑から赤、そして青点滅と変わってシフトタイミングが分かりやすい。

 シフトタイミングも、4000rpmから7000rpmまで100rpm単位で設定できるため、あまり上まで引っ張りたくない初心者でも使いやすい。さらに、シフトタイミングを行なう青点滅までの秒数を1秒前/1.5秒前/2秒前/3秒前から指定するタイミング式と、ギヤ比に連動して設定される方法を選ぶことができ、細かい調整が可能。大島選手や石浦監督はタイミング式(しかも大島選手は短い1秒が好み)がお勧めで、佐々木選手はユーザーの立場にたってギヤ比連動式がお勧めとのこと。GRヤリスの初期値は5500rpmで1。5秒、LBX モリゾウRRの初期値は5500rpmのギヤ比連動に設定してあった。

 実際にこのモードで単純加速してみると、確かにシフトアップタイミングが分かりやすい。通常の回転計式や横バー式だと、メーターをにらんでいないと、5600rpmや5700rpmといった把握は難しい。

 しかし、このスーパーフォーミュラ式のシフトチェンジインジケータであれば、目の隅っこでインジケータが動いており、青く点滅するのも分かる。いつシフトチェンジしてよいか把握しやすく、使いやすかった。タイミング設定については、タイミング式の長めが好みだったが、ギヤ比連動も使いやすい物だった。逆に、タイミング式の短めはプロ向き、シフトチェンジが素早くできる人向けになるだろう。

■ あこがれのアンチターボラグ機能を「なし/弱/中/強」の4段階から設定可能

 このサーキットモードでは、メーターパネルといった表示系だけでなく、協議向けのラリー車が装備するアンチターボラグ機能もセッティング可能な形で付加される。言わば、エンジンコントロール機能をユーザーに開放する、画期的なことが行なわれている。

 ラリーのテレビ中継を見ていると、ターボマシンなどではコーナーの立ち上がり「ウォーン、パパーン、パン、パン」など激しい排気音がするのを知っている人も多いだろう。これは、未燃焼ガスをターボ前で燃焼させることでアクセルオフ時のターボ用タービン回転数を維持。次の加速にスムーズに移ることができるようにするものだ。

 TOYOTA GAZOO Racingは、このアンチターボラグ機能を排ガス規制に適合する状態で実現。しかも、「なし/弱/中/強」の4段階からスマートフォンで設定可能とした。

 具体的にはアクセル開度40%を超えた状態で、アクセル開度を下げた場合(おおよそ4000rpm以下)に発動。再加速に備えて点火タイミングを遅角することでタービン回転数を引き上げる。排ガス規制に適合するほど調整されたもので、勇ましい排気音もない。でありながら、再加速には有利となるメリットを得られるというもの。

 こちらも実際体感したが、これは特設コースのためか結構使いこなしが難しいものだった。アンチラグ機能をONにすると、弱でもエンジン回転数の落ちが甘くなる。もてぎ南コースの特設エリアのため、やや回り込むコーナーが多く、エンジン回転数の落ちで荷重移動を発生させ、それによって回り込むという自分のクセがうまく使えない状態となった。

 確かに、加速はアンチラグを強くすればするほど強くなるが、エンジン回転数の落ちもそれに比例して甘くなり、前下がりの荷重移動を作りにくくなる。出口が広がっているコーナーや、自分の走りをアジャストする時間があればもっと楽しめたのかもしれないが、機能の違いは体感できたものの、使いこなしが難しかった。

 また、アンチラグに入っていることが小さなインジケータで示されるのみで、走りからは分かるものの、アンチラグの強さが疑似音などで分かるともっと直感的に使えたのかもしれない。

 さらに欲を言えば、エンジン回転数をもっと落としながらタービンだけ回るようにしてほしいが、どう考えても複雑な独立制御が必要であるため市販車では難しい領域に入っていってしまうだろう。

 贅沢を言えばきりがないが、このアンチラグ機能はスマートフォンのセッティングでエンジンの機能を調整しており、とてもメーカー純正の市販車とは思えないことを実現している。自分自身は、今回のコースセッティングではアンチターボラグを気持ちよく使いこなせなかったが、デジタルセッティングでクルマの特性が変わるなど、プロのレーシングマシン的なことが誰でも手軽にできてしまうことを実感できた。

 走っては特性を変更し、変更してはタイムアタックに挑むといった、クルマのわくわく感を数段引き上げる楽しみが目の前に広がっている。しかもそれを実現したメーカーは、かつて保守的なクルマ作りで知られたトヨタなのにも驚く。

■ クルマの価値がどんどん高まる、SDVの時代

 トヨタは、TOYOTA GAZOO RacingとしてWRC(世界ラリー選手権)やWEC(世界耐久選手権)、そして国内ではスーパーフォーミュラやスーパー耐久、SUPER GTに参戦しているが、今回の機能にはそれらのノウハウが入っているという。

 ノウハウもそうだが、なによりプロドライバーの意見が入ったメーターパネル、そしてエンジンセッティング変更など、スマホでこんな楽しい機能を実現したのには可能性を感じる。

 ちなみに、今回のメーターパネルのグラフィックスはあらかじめ組み込まれていたもので、進化型GRヤリスの企画時に採り入れられていたという。そこを今回のスマートフォンアプリで鍵を開けたことになる。スマートフォンアプリで表示系のほか、エンジンECUもコントロール可能とした。

 トヨタはそんな先端的な取り組みを行なっているメーカーとなった。

 このように、DCM経由でサーバーと接続し、そのパラメータをスマホアプリでコントロールするという構造が可能であるならば、クルマはもっと面白くなるだろう。

 たとえば、サーキットモードであればサーキットに埋め込まれた磁気バーと連動するラップタイム機能はほしいし、そのロガー機能もあるとありがたい。また、サーバーでロギングできるならばTOYOTA GAZOO Racingドライバーの参考ラップタイムとの比較もできるとうれしいし、推しドライバーとしてサーキットデータとともにDLC(ダウンロードコンテンツ)として購入するのもありだろう。もちろんアマチュアドライバーとしてトップクラスの腕前を持つモリゾウ選手データもあると、とくにLBX モリゾウRRユーザーなどは楽しめるだろう。

 リアルとバーチャルをデータで遊ぶ、デジタルで楽しむ、そんな世界の扉をトヨタは開こうとしている。

 なお、このアプリ提供時期は、進化型GRヤリスが8月21日、LBX モリゾウRRが2024年内。9月9日にオートポリス(大分県)で開催される「TOYOTA GAZOO Racing Driving experience(TGRD)」内において、対象車種を所有しない人にも体験できる機会として「TGRD in AUTOPOLIS限定イベント サーキットモード体験会」も用意する。

 対応サーキットは下記のとおりだが、記事でふれたようにスマートフォンでサーキットモードに移行するため、スマートフォンで電波が取得できなければ機能が利用できない。大手サーキットでは問題ないと思うが、地方サーキットではキャリアによって電波が弱い場合があるので気をつけていただきたい。

 このサーキットモードのリリースをきっかけに、一人でも多くの人に新しいクルマの楽しみ方を味わっていただければと思う。ユーザーの要望によっていくらでも発展していき、クルマの価値もどんどん高めてくれる。進化型GRヤリスやLBX モリゾウRRには、とんでもない機能が隠されいた。

■ サービス対象施設一覧

北海道:十勝スピードウェイ

青森:青森スピードパーク

宮城:スポーツランドSUGO

福島:エビスサーキット

茨城:筑波サーキット [D]

栃木:モビリティリゾートもてぎ

栃木:日光サーキット

栃木:つくるまサーキット那須 [C/C]

群馬:群馬サイクルスポーツセンター

埼玉:本庄サーキット

千葉:袖ヶ浦フォレストレースウェイ

千葉:THE MAGARIGAWA CLUB

千葉:茂原ツインサーキット [C/C]

富山:おわらサーキット [C/C]

福井:タカスサーキット

岐阜:YZサーキット

静岡:富士スピードウェイ [D][C/C]

愛知:オートランド作手

愛知:モーターランド三河

愛知:幸田サーキットyrp桐山 [C/C]

愛知:美浜サーキット

愛知:スパ西浦モーターパーク

愛知:キョウセイドライバーランド

愛知:池の平ワンダーランド

三重:鈴鹿サーキット

三重:鈴鹿ツインサーキット

三重:モーターランド鈴鹿

兵庫:セントラルサーキット

岡山:岡山国際サーキット [D]

広島:TSタカタサーキット

徳島:阿讃サーキット

愛媛:瀬戸内海サーキット

熊本:HSR九州

大分:オートポリス [D]

[D]=TGRD開催施設、[C/C]=サーキットチャレンジ開催施設