人を救う傘『サイレントアンブレラ』 視覚障害者が歩く時に重要な「周囲の音」を雨音で遮らない 18年かけて開発「難しかった」と傘職人
大阪の老舗の傘店が、およそ18年かけて特殊な傘「サイレントアンブレラ」を開発した。
視覚障害者の声による切実な要望がきっかけとなり、雨音が静かな傘が誕生した。
愛用者の声も高く、特に視覚障害のある客からの注文が多い。
大阪の老舗の傘店が、およそ18年かけて特殊な傘を開発しました。
その名は「サイレントアンブレラ」。名前の通り、雨音が静かな傘です。開発のきっかけとなったのは、視覚障害者の声でした。
大阪・阿倍野区にある老舗の傘店「丸安洋傘」が開発した「サイレントアンブレラ」。
普通の傘と違い、メッシュ生地と通常の生地の2層構造になっています。外側のメッシュ生地が雨をはじき、内側の生地との間に空間を作ることで雨音が軽減されます。その名の通り“静かな傘”なのです。
開発に携わった丸安洋傘の傘職人、川口博文さんは「これまでは、雨音の良い傘が良い傘だといわれてきた」といいます。では、なぜ“静かな傘”を開発することになったのでしょうか。
きっかけは約18年前、先代の社長に寄せられたある相談でした。
「視覚障害があり、雨の日は傘に当たる雨音で普段歩く際に頼りにしている音が聞こえづらい。雨音のしない傘を作ってほしい」という切実なオーダーだったのです。
川口さんは、「これまでと真逆の発想だったので開発は難しかった」と話します。
相談を受けてから、先代の社長が最初に試作品の素材として使ったのは「洗濯ネット」でした。しかし、ネットはうまく雨を弾かず、音を軽減することができませんでした。
その後もさまざまな素材を使って、何度も試作を重ねました。
開発を始めてからおよそ18年。ようやく音が最も小さくなる「隙間」を、軽い素材で作ることに成功しました。
「サイレントアンブレラ」の注文は、2022年10月の販売開始から300本ほどになりました。そのうち、ほとんどが視覚障害のある客からの購入だということです。
愛用者の一人、大阪南視覚支援学校の教師・丸谷賢司さん。
丸谷さんは全盲で、普段周りから聞こえてくる自動車の走行音や、白杖が道に当たる音などを頼りに歩いています。
雨の日は、そうした周囲の音が傘に当たる雨音でかき消されてしまい、周囲の音を聞くことにいつも以上に集中しなければなりません。そのため、雨の日は気分が落ち込んでしまうことも多かったといいます。
さらに雨の激しい日には、道の右側を歩いているつもりが、知らず知らずのうちに道を渡っていて、左端に移動していたという危険な体験をしたこともあるということです。
そんな悩みを抱えていた丸谷さんは、たまたまラジオ番組で知った「サイレントアンブレラ」を半信半疑で購入。雨の日に使ってみると、普通の傘を差している時と比べて、周りの音がくっきりと聞こえるようになり、雨の日の歩行がかなり楽になったということです。
