【体験格差】経済力の格差が出やすいものも…体験の「提供者」の違いから「見えてくること」

AI要約

記事では、低所得家庭の子どもたちにおける体験格差の実態が明らかにされており、体験の提供者ごとの費用の違いが示されている。

特に、民間事業者が運営する活動は費用が高く、低所得家庭の子どもは参加しにくい状況が浮き彫りになっている。

記事は、「体験格差」が子どもたちの成長や可能性に与える影響に焦点を当て、解消の必要性を訴えている。

【体験格差】経済力の格差が出やすいものも…体験の「提供者」の違いから「見えてくること」

 習い事や家族旅行は贅沢? 子どもたちから何が奪われているのか? 

 低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」、人気の水泳と音楽で生じる格差、近所のお祭りにすら格差がある……いまの日本社会にはどのような「体験格差」の現実があり、解消するために何ができるのか。

 発売即4刷が決まった話題書『体験格差』では、日本初の全国調査からこの社会で連鎖する「もうひとつの貧困」の実態に迫る。

 *本記事は今井悠介『体験格差』から抜粋・再編集したものです。

 「体験」の値段を考えるうえでは、体験の「提供者」の違いに着目することも重要だ。

 例えば、同じサッカークラブであっても、企業が運営するクラブに所属するのと、放課後のグラウンド等を使って保護者がボランティアで運営するクラブに所属するのとでは、保護者にかかる費用の水準が違ってくる。体験の「提供者」の違いまで見ることで、より細かなニュアンスを把握することができる。

 そこで、今回の調査では、「放課後」と「休日」のそれぞれについて、子どもたちが参加している「体験」をどんな主体が提供しているのか、保護者に聞いている。

 その結果について、まずは各種の習い事やクラブなどからなる「放課後」の活動から見ていこう。

 調査では、(1)民間事業者、(2)地域や保護者のボランティア、(3)学校のクラブ活動、という3つの選択肢を提示した。そして、その回答をもとに、それぞれについて平均の年間支出額を示したのがグラフ5だ。体験の「提供者」ごとに金額の違いが出ているのがわかるだろう。

 スポーツ系を見ると、「民間事業者」が運営する場合は平均で約9.2万円かかっているのに対し、「学校のクラブ活動」ではそのちょうど半分の約4.6万円となっている。文化系では「民間事業者」で9万円超、「地域や保護者のボランティア」で約3.5万円だ。こちらも差が大きい。

 「民間事業者」で相対的に支出額が大きくなることはイメージしやすいだろう。講師や指導者の人件費、会場や設備にかかる費用が、基本的にすべてお金を払ってサービスを利用する側、つまり保護者の負担(受益者負担)になるからだ。

 逆に、「ボランティア」や「学校のクラブ活動」の場合には、コーチに支払われるお金が交通費程度であったり、施設の利用にかかる費用が無料であったりすることで、保護者の経済的な負担が抑えられやすい。

 ただし、地域の野球やサッカーのクラブなどをイメージすればわかる通り、保護者は単に利用者であるだけでなく、無償で様々な活動をサポートする存在として期待される側面もある。つまり、金銭的な負担の少なさと、時間的な負担の多さとがセットになっている場合があるのだ。

 ひとり親家庭でかつ働いている場合などが典型的だが、こうした親にとっての時間的な負担が(お金以外の)壁となり、子どもが「体験」の場に参加することを難しくしてしまうケースもある。

 次に、「休日」の体験の「提供者」については、(1)民間事業者、(2)地域や保護者のボランティア、(3)自治体・公的機関、(4)プライベート(家族や友人同士)、という4つの選択肢を提示した。

 そのうえで、「自然体験」、「社会体験」、「文化的体験」の領域ごとに年間の平均支出額を見ると、「放課後」の体験と同じく、いずれも「民間事業者」で高くなっている(グラフ6)。

 「民間事業者」の次に費用が高くなっているのが、家族や友人との様々な場所へのお出かけや旅行などが含まれる「プライベート」だ。家庭ごとの経済力の格差が出やすい領域だと言えるだろう。

 それらに比べ、「ボランティア」や「自治体・公的機関」が提供する「休日」の体験は相対的に安くなっている。それらの中には無料で参加できるものもあるが、一定の参加費、また交通費や食材費といった実費がかかる場合もある。

 こうした体験の「提供者」ごとの支出額の違いから想像できることは、それぞれの保護者たちは自らの経済力に応じて、自分の子どもがどんな「体験」の場に参加するか(できるか)を判断しているだろうということだ。

 単純化して言えば、低所得家庭の子どもは、地域のボランティアや自治体が提供する無料および安価な「体験」の場には参加しやすいが、企業などが提供するそれには参加しづらい、そんな状況があるのではないか。

 本書の引用元『体験格差』では、「低所得家庭の子どもの約3人に1人が体験ゼロ」「人気の水泳と音楽で生じる格差」といったデータや10人の当事者インタビューなどから、体験格差の問題の構造を明かし、解消の打ち手を探る。