オフィスに響く怒号──「経営危機のブラックIT企業」が「残業月15時間のホワイト企業」化した改革の中身

AI要約

15年前、ブラックな労働環境で若手社員が次々と辞める中、IT企業・メンバーズが「プロジェクトX」を起こし、脱ブラックを達成。

プロジェクトでは、赤字案件からの撤退や固定費削減を進めるとともに、人事制度を改革し、業績好転を実現。

全員参加型経営を掲げ、利益の一部を社員に還元する方針により、個人評価にとらわれない共通の目標を実現した。

オフィスに響く怒号──「経営危機のブラックIT企業」が「残業月15時間のホワイト企業」化した改革の中身

 泊まり込みや休日出勤は「当たり前」の、ブラックな労働環境だった──東京都中央区に本社を構えるIT企業・メンバーズ。代表取締役社長を務める高野明彦氏(「たか」ははしごだか)は、15年前を振り返りそう語る。

 当時の同社は、上場して2期連続で赤字が続くピンチ。ブラックな働き方をしているにもかかわらず、業績は伸びない。オフィスには怒号が響くような状況で、社員は次々に辞めていった。

 そんな中、若手を中心に会社の生き残りをかけた「プロジェクトX」が発足する。“脱ブラック”を成し遂げ、残業時間を月平均約15時間に抑えるまでの15年間の道のりは、どのようなものだったのか。また、働き方改革と業績成長を同時に進められた理由とは。

 2009年のリーマンショックを受けて時価総額は3億円を切り、キャッシュが回るかさえ心配されるような危機的な状況だった。

 「皆が『きっと潰れる』と思っているような会社でした」(同氏)。会社の生き残りをかけた取り組みとして、若手幹部を中心に立ち上がったのが「プロジェクトX」だった。

 プロジェクトでは、改革の方針を大きく3つに定めた。「黒字必達」「固定費削減」、そして「人事制度改革」だ。

 「黒字必達」のために、それまでは売り上げしか見ていなかった状況を改善し、プロジェクトごとの利益を管理。赤字案件からの撤退を進め、収益性の高いものに集中していった。

 「社員もどんどん辞めていくような状況だったので、売り上げが減っても赤字案件をなくすことの方が全体の収益性は上がる状況でした」(同氏)

 しかし、それだけですぐに売上向上や業績好転を見込めるものではない。このため「固定費削減」として、オフィスを移転した。「虎ノ門の豪華なオフィス」から「五反田の雑居ビル……のような雰囲気のオフィスビル」(同氏)へ。年間約1億円のコスト削減につながったという。

 「人事制度改革」では、裁量労働制を廃止。時間に応じて残業代を払う形とした。コストは上昇したが、企業成長と社員の報酬を連動させ、業績好転へのモチベーションを高めるために必要な出費と判断した。

 賞与制度も変更した。個人評価に応じて増減する方式だったが、完全業績連動型に。上がった利益の半分を賞与に当て、社員に分配する。利益が1億円アップすれば、5000万円を全社的な賞与の原資に当てる形だ。

 「個人評価に応じた方式では、自分の手取りを増やすためにたくさん残業をすると、全体の賞与の原資が減ることになる。危機を脱するフェーズにおいて、皆で会社の利益を上げて分配することを目指しました。『全員参加型経営』の考え方を体現した一つの例だったと思います」

 「全員参加型経営」は、同社が創業時から掲げている指針の1つだ。それまでは「全員が経営者意識を持つ」といった意味合いで使われることが多かったが、言葉の意味が変化してきていた。

 「『皆ちゃんと稼いでくれ』程度の意味だったものが、より実質的で本来的な意味になってきたのはこの頃だったかと思います」(同氏)