ミンツバーグが明らかにする4種類の組織形態

AI要約

4つの基本的な組織形態が存在し、それぞれに特徴がある。

パーソナル型組織は個人が中心にいる組織であり、最高位者がすべてに責任を持つ。

パーソナル型組織はシンプルな構造であり、意思決定や戦略形成も最高位者を中心に行われる。

ミンツバーグが明らかにする4種類の組織形態

■4つの基本的な組織形態

 組織設計に「唯一で最善の方法」が存在しないとすれば、いくつの方法があるのか。ひとまずの答えは4つだ。差し当たり、現段階では4つの方法を挙げておく。そのあと、本書では7つの力について論じ、最終的には真の回答を、つまり、状況に応じて無数の方法がありうることを示したい。しかし、ここでは、とぼけた発言で知られていた往年のニューヨーク・ヤンキースのキャッチャー、ヨギ・ベラの言葉を尊重することにしよう。ピザを4枚にカットしてほしいか、6枚にカットしてほしいかと聞かれたとき、ベラはこう答えたという。「4枚がいい。6枚も食べられるとは思えないよ」。というわけで、読者が消化しやすいように、以下では4種類の組織形態を紹介する。

 ときには、ものごとの理解を深めるために、現実を戯画化してステレオタイプにはめ込むことにより、類型ごとの違いをあえて際立たせることが有効な場合がある。組織形態の種類を限定して考えることにも、そのような効果が期待できる。以下の4つの章で取り上げる4つの類型―本書『ミンツバーグの組織論──7つの類型と力学、そしてその先へ』でここまで論じてきた構成要素をもとに形づくられる―は、「パーソナル型」「プログラム型」「プロフェッショナル型」「プロジェクト型」というキーワードで説明される。正確に言うと、パーソナル・エンタープライズ=個人が君臨する事業、プログラムド・マシン=工程が定められている機械、プロフェッショナル・アセンブリー=専門職の寄せ集め、プロジェクト・パイオニア=革新を目指すプロジェクトである。この4類型を図に示したのが図表3-1だ。

 レストランを例に考えてみよう。町の食堂、ファストフード・チェーン、高級レストラン、イベントへのケータリングサービス―この4つの類型は、同じサービスを大きく異なる方法で提供している。町の食堂は、オーナーというひとりの人間を中心にすべてが回っている。ファストフード・チェーンは、業務の工程がすべて定められている。高級レストランは、料理人のスキルに大きく依存している。そして、イベントへのケータリングサービスは、ひとつのプロジェクトとしてカスタマイズされている。自然界に目を転じると、この4つの類型に該当するのは、ボスザルの率いるサル山、隊列を組んで空を飛ぶ雁の群れ、あちこち走り回って各自の仕事に励むアリの集団、ダムを築くビーバーの一家と言えるかもしれない。

 このような基本的な形態は、「理想形」と呼ばれることが多い。しかし、実際には別に理想的なわけではないので、「純粋形」と呼んだほうがいいかもしれない。また、これらの類型は、現実そのものというより、理解を助けるために現実を単純化したものだという点も頭に入れておいてほしい。とはいえ、次章以降の記述では、あなたが想像する以上に組織の現実が見えてくるかもしれない。なお、細かい留保やニュアンスについてはあとで論じる(第6部)。

■パーソナル型組織──個人が君臨する事業

陸上競技のチームが走り高跳びで優勝したければ、2メートル跳べる選手をひとり用意すべきだ。30センチ跳べる選手を7人用意しても意味はない。

――ターマンのイノベーションの法則

 ターマンのイノベーションの法則は、真理を言い当てている(リレー競技に出場する場合は話が変わってくるが)。パーソナル型組織(パーソナル・エンタープライズ=個人が君臨する事業)の中心に位置するのは、すべてに責任をもつ個人、すなわち最高位者だ。創業者や創設者が舵取り役を務める新興企業や社会的事業体(投資家によって所有されていない事業体のこと。非営利組織と呼ばれることも多い)、活動を軌道に乗せるために集権的なマネジメントを必要とする新設の政府機関、危機に対処しようとしている病院などを思い浮かべればいい(図表7-1)。このような組織では、誰かひとりがすべての活動に責任をもつ必要がある。その人物が「ハブ」の中心に陣取って直接的な監督をおこない、ものごとを実行するのだ。

 本章以下では、チームスポーツの例を用いて、それぞれの組織形態を説明していく。では、パーソナル型組織を表現するのに適した競技はなんだろう。ひとりの人物がそこまで絶大な影響力を振るうスポーツとは? 読み進める前に、自分で考えてみてほしい。

 ほかの3つの組織形態と異なり、このパーソナル型組織の例としてふさわしいスポーツは、私もすぐには思い浮かばなかった。しかし、一度思いつくと、ぴったりの例に思えてきた。そのスポーツとは、ヨットレースだ。ひとりの人物がアイデアやビジョンをいだき、設計者とともにヨットを設計し、クルー(乗組員)を集めて、レース中はスキッパー(艇長)を務める。ほかのクルーが重要でないわけではないが、すべてのクルーの行動がひとりの最高位者を中心に展開するのだ。

■パーソナル型組織の基本構造

 パーソナル型組織の基本的構造の特徴は、「手の込んだ構造が存在しない」ことだ。個人が君臨する組織は、しっかりとした構造をもつことを拒む。本書の原型となった著作では、それを「シンプルな構造」と呼んだ。このタイプの構造では、役割分担が緩やかで、分析を担うアナリストがほとんど存在せず、標準化のメカニズムと、計画とコントロールのシステムが形づくられない。それらの仕組みの形成は、ひとりの中心人物の権威を脅かすため、奨励されないのだ。

 マネジメント階層も少ない。「パーソナル」という呼称が示唆するとおり、最高位者自身が大勢の人たちをコントロールする。小規模な組織であれば、すべてのメンバーが最高位者に直属しているケースも珍しくない。図表7-1でこの種の組織をフラット(平坦)な組織として描いたのは、これが理由だ。このタイプの組織では、そもそも組織図が存在しない場合もある。誰が誰の上司かをみんなが知っているのであれば、組織図なんて必要ない。以前、私の教え子たちはある小規模なポンプメーカーについて研究し、次のように指摘した。「社長が工場の現場の技師と格式張らない会話をすることは珍しくない。そのため、機械が故障した際は、工場長に報告が上がるより早く、社長が把握している」。もっとも、これは小規模企業だけの現象ではない。お馴染みの巨大企業もこの種の組織構造をもっている。

 スティーブ・ジョブズは、(巨大なアップルという会社を)高度な自律性をもたせた事業部の集合体のようにはしなかった。社内のすべてのチームをみずから緊密にコントロールし、一体性のある柔軟な組織として活動させ、損益の集計も会社全体の単位でおこなった。「事業部ごとに独立して損益を計算することはしていません」と、のちにジョブズの後任としてCEOに就任するティム・クックは述べていた。「会社全体でひとつの損益計算書しか作成していないのです」

 このような組織では、対立が生まれにくい。内部の人物が最高位者に異を唱えれば、たちまち逆鱗に触れて居場所を失いかねない。また、有力な顧客など、外部の人物が影響力を及ぼそうとすれば、最高位者は、反撃を試みたり、場合によっては、批判を受けにくい環境に組織を移動させようとしたりするかもしれない。

 パーソナル型組織では、ほかの大半のことがそうであるように、意思決定と戦略形成も最高位者を中心におこなわれる傾向がある。そのため、最高位者がその気になりさえすれば、状況に素早く反応できる。また、このタイプの人たちはサイエンス志向よりアート志向が強く、直感的で場当たり的な行動が多い。とりわけ、「まず見ること」から出発して機会をつかもうとする。その結果として、「インサイト」や「ビジョン」といった言葉がよく用いられる。パーソナル型組織における戦略は、最高位者の世界観を反映したものになる場合が多い。その人物の個性の延長線上に戦略があるケースもある。