車内に坪庭、まるで「走る京町家」…阪急電鉄「京とれいん 雅洛」のこだわりとは

AI要約

阪急電鉄・京都線を走る観光特急「京とれいん 雅洛」は、古都・京都の伝統や自然がデザイン化されたこだわりの列車である。

デザイナーが伝統的な要素を取り入れる貴重な機会として車両デザインに取り組む中で、畳や絹織物、工芸品などの要素が車内に盛り込まれた。

観光客に京都気分を提供するため、本格的な仕様の観光列車として、既存の車両を改造して独自のデザインとテーマを実現した。

 車両に足を踏み入れると、そこはまるで京町家―。阪急電鉄・京都線(大阪梅田―京都河原町)を走る観光特急「京とれいん 雅洛(がらく)」(6両編成)は、古都・京都の伝統や自然がデザイン化されたこだわりの列車だ。(吉田雄人)

 「木材や色柄など、今まで使えなかった素材を盛り込もう」。車両デザインを手がけることになった阪急電鉄子会社の「アルナ車両」(大阪府摂津市)の大村知也(52)の胸は高鳴っていた。

 大村は芸術系大学を卒業後、デザイナーとして入社し、アルナ主力の路面電車の設計やデザインを手がけてきた。

 機能性や安全性を追求してきた一方、遊び心が入り込む余地はなかった。雅洛は違う。伝統的な畳や絹織物、工芸品といった、通常の車両には盛り込むことが難しい要素を使える貴重な機会にもなる。「過去の知識を全て注ぎ込んだ集大成にする」と決意した。

 鉄道車両の細長い外観から、間口が狭く「ウナギの寝床」と称される京町家を連想。車内デザインには畳敷きの座席や円い形の窓など、京都をイメージするもののエッセンスをふんだんに盛り込んだ。

 中でも、こだわったのは「坪庭」だ。自身も京都に住む大村にとって町家といえば庭であり、「何としても車内に再現したい」との思いがあった。書店や図書館に通い、関連しそうな書籍を読みあさる一方で、実際に嵐山や東山にある社寺に足を運んだ。積み上げた知識を基に、枯れ山水の庭園に用いられる玉砂利で庭を手作り。揺れを考慮し、砂を接着剤で固めるなどしたが、「本物の坪庭」と胸を張れる出来栄えに仕上がった。

 雅洛は阪急の観光列車としては2代目になる。初代がデビューした2011年以降、訪日客(インバウンド)が激増し、社内ではより本格的な仕様の観光列車を求める声が高まった。16年、多様な部署から集められた約10人が検討を開始。メンバーだった技術部の長谷川裕高(36)は「京都にこだわらず、カフェや阪神間モダニズムなど、幅広い構想についてゼロベースで意見を交わした」と振り返る。

 1年をかけ、国内外いずれの観光客にも人気が高い京都をアピールするため、列車のテーマは「ご乗車されたときから京都気分」に。新型車両は開発せず、通勤型車両「7000系」を改造することも決めた。「阪急らしさを残したまま、斬新な列車を作りたい」と、著名なデザイナーではなく、子会社のアルナにデザインを任せる選択もした。