レーザーガンより「レールガン」? 日本が最先端を行く“SFっぽい兵器”何がいいのか アメリカは足踏みのナゼ

AI要約
アメリカにおけるレーザー兵器の開発状況に関する報告陸軍と空軍でのレーザー兵器開発の問題点海軍のレーザー兵器の実用化と課題
レーザーガンより「レールガン」? 日本が最先端を行く“SFっぽい兵器”何がいいのか アメリカは足踏みのナゼ

「あなたたちは一体何を考えているのか」

「まずは3つの金額の紹介から始めたいと思います。1万ドル、430万ドル、12ドルです」

「1万ドルはイランとフーシ派が使用しているドローンの最高推定コスト、430万ドルはSM-6ミサイル1発のコスト、そして12ドルはドローン1機を撃墜できるレーザー指向エネルギー兵器1発分のコストです」

 

 2023年4月、アメリカ上院軍事委員会の公聴会で、クリスティン・ウォーマス陸軍長官と陸軍参謀総長ランディ・ジョージ大将に、アンガス・キング上院議員が詰め寄りました。

 レーザー指向エネルギー兵器はSFではおなじみであり、2010年代に入ると運用上のゲームチェンジャーになると喧伝されてきました。安価なドローンの脅威が急速に高まる中で、高価な対空ミサイルを使用するコストパフォーマンスの悪さも問題になり、レーザー兵器に対する期待はさらに高まっています。

 こうしたレーザー兵器はイスラエルがいち早く実用化に成功し、対空防御システム「アイアンビーム」を2020年8月から実戦配備。しかしアメリカ軍の開発進捗は思わしくなく、予算案でもレーザー兵器の開発予算が削減されたことを上院議員が問題提起したのです。

 2024年5月15日の上院歳出委員会の公聴会で、陸軍調達・兵站・技術担当次官であるダグ・ブッシュが、陸軍による「レーザー兵器防空ストライカー」(自走レーザー指向性エネルギー型短距離防空〈DE M-SHORAD〉システム)の実地試験の結果について、あまり芳しくない報告を行いました。DE M-SHORADシステムで使用されるレーザーは50kWの定格出力を持ち、8×8装輪式のストライカー装甲車に搭載されて、主に小型ドローンや飛来する砲弾、迫撃砲弾を破壊するために設計されています。

 陸軍は3月にDE M-SHORADの試作車4両を受領し、中東へ送りました(場所は非公開)。しかし現場は工場や実験場のような「快適な」環境ではなく、扱う部隊も専門技術者ではありません。複雑精緻な電子機器の塊をストライカー装甲車に詰め込み、過酷な環境で走り回らせて正常に作動させるのは困難で、砂塵や気象状況によってレーザーは減衰し効果に大きなブレが生じたようです。現状、実戦兵器として及第点は得られませんでした。

 空軍では、自己防衛型高エネルギーレーザー実証装置(SHiELD)プログラムが実施されていました。これは有人戦闘機にレーザー兵器ポッドを装備し、空対空ミサイルや地対空ミサイルから自機を防御することを目的としたもので、将来的には第6世代有人機に搭載することを目標にしていました。

 2017(平成29)年時点で、SHiELDシステムポッドを戦闘機に搭載し、2021年に初飛行を行うことを計画していましたが、2020年に初飛行は2025年へ延期され、2024年になってプログラムの終了が宣言されました。終了の理由は明らかにされていませんが、高出力レーザー兵器をポッドに収められるように小型化するという技術的課題がクリアできないといわれています。

 アメリカ海軍もレーザー兵器開発に取り組んでおり、攻撃・監視・妨害の3つの用途を統合した、出力150kWのレーザー「HELIOS」の実用化に成功しているものの、ドローンを焼き切るのに5~10秒を要します。低速のドローンなら複数機でも対処可能ですが、高速の巡航ミサイルには十分ではありません。出力300~500kWが理想とされるものの出力を上げるに大きな電力が必要で、ほとんどの船は専用のバッテリーと冷却ユニットを搭載した電力制御コンテナを持ち込まなければなりません。

 アメリカでは、限られた国防予算の中でレーザー兵器研究開発に振り向けられる予算が削減され、レーザー兵器が運用上のゲームチェンジャーになるという2010年代の宣言は怪しくなってきています。先の上院軍事委員会での議論はこのような経緯を踏まえています。