新総統に就任した頼清徳氏「台湾守る」を強調 中国との緊張は継続、対話実現見通せず

AI要約

台湾総統の就任演説で、中国との対話を呼びかけつつも国の防衛を強調。

民進党政権の路線継承や中国の脅威に対する国民の意識強調。

中国との関係改善は不透明、台湾の独立を目指す動きは困難。

新総統に就任した頼清徳氏「台湾守る」を強調 中国との緊張は継続、対話実現見通せず

 【台北・後藤希、北京・伊藤完司】台湾総統に就任した民主進歩党(民進党)の頼清徳氏は20日の就任演説で民進党政権を敵視する中国に対話による関係改善を呼びかける一方、中国の軍事的脅威から「国を守る決意」を強く打ち出した。中国政府はすぐさま「独立を目指す危険なシグナル」と反発し、台湾統一への意欲を改めて示す。今後、中国は対中融和路線の最大野党、国民党を通じて内部分断を図る可能性が高い。中台の緊張緩和は見通せず、頼氏は就任早々、難しいかじ取りを迫られる。

 台北市の総統府前の広場には数千人の市民が詰めかけ、熱気に包まれた。頼氏が身ぶりを交えて「中国が中華民国(台湾)の存在事実を直視し、台湾人民の選択を尊重することを望む」と語気を強めると、会場から大きな拍手と歓声が湧き起こった。

 頼氏は演説で、統一も独立も求めない蔡英文前政権の路線を継承する考えを強調した。かつては「台湾独立」に言及したこともあったが、持論を封印して安定を重視した格好だ。中国に対し「対抗ではなく対話を、封じ込めではなく交流を進め、協力し合うことを望む」とも呼びかけた。

 台湾では党派を問わず、現状維持を望む声が根強い。中国は中台を不可分の領土とする「一つの中国」原則の受け入れを対話条件としているが、頼氏は「中台は互いに隷属しない」と述べて受け入れない考えを示した。「中国の提案を全面的に受け入れても中国の台湾併合のたくらみは消えないことを国民は理解すべきだ」とも語った。

 1月の立法委員(国会議員)選挙では不動産価格の高騰や低賃金などに不満が高まり、若者の支持が第三勢力の台湾民衆党に流れて敗北。民進党は立法院(国会)で過半数を割り込み、第1党を国民党に譲った。

 中国は4月、習近平国家主席が同党所属の馬英九元総統と会談して良好な関係をアピール。同党立法委員の訪中も受け入れ、福建省住民による観光目的での台湾渡航を再開する方針を示した。

 台湾周辺での軍事活動も活発化させ、金門島周辺で2月に起きた中国漁船転覆事故を契機にパトロールを常態化。軍用機が台湾海峡の暗黙の「休戦ライン」である中間線を頻繁に侵入するなど、「アメ」と「ムチ」を織り交ぜた圧力を続けている。

 台湾政治に詳しい東京外国語大の小笠原欣幸名誉教授は「台湾独立には踏み込まず、現状維持の決意を強く打ち出した印象だ。中国の圧力の高まりを受けて台湾を守るという意識が強まったのだろう。中国は4年後の総統選を見据えて圧力をかけ続け、今後も中台の緊張が続く可能性が高い」と見ている。