SF小説家テッド・チャン「AIに本当に知能がある?…そうは思わない」

AI要約

テッド・チャン氏はSF作家であり、科学に対する洞察を持った作品を多数発表している。彼はAIについても深く考察し、AIの性能や可能性について独自の見解を述べている。

テッド・チャン氏は科学の思考実験とSFの思考実験について比較し、SFの思考実験は科学のそれよりも厳密さを求められないと語る。SF作品は哲学的問題を探求するための道具として活用されている。

テッド・チャン氏はAIに対する隠喩や比喩の重要性についても言及し、隠喩が複雑な概念を理解しやすくする役割を果たすと述べている。

SF小説家テッド・チャン「AIに本当に知能がある?…そうは思わない」

 6月12日に「人を超える人工知能(AI)、人間の価値も持ちうるのか?」をテーマに開催される第3回「ハンギョレ人とデジタルフォーラム」で基調演説を行うテッド・チャン氏にインタビューした。インタビューは、フォーラムでテッド・チャン氏と対談を行う成均館大学のキム・ボムジュン教授(物理学)がeメールでおこなった。

 テッド・チャン氏は、米国で活動する当代最高の科学小説(SF)作家だ。SF文学界で最も権威のある賞であるネビュラ賞とヒューゴ賞を複数回受賞している。短編小説『あなたの人生の物語』は2016年にドゥニ・ヴィルヌーヴ監督により映画化(『Arrival』、日本タイトルは『メッセージ』)され、大きな人気を集めた。テッド・チャンは最近、AIについて深く洞察した文章を複数発表し、大きな注目を集めている。特に昨年2月の「ChatGPTはウェブのぼんやりとした複製だ」と題する「ニューヨーカー」に寄稿したコラムは、AI論争の次元を高めたと評価されている。

-ハンギョレの読者に自己紹介を。

 「SF作家のテッド・チャンだ。短編小説集『あなたの人生の物語』、『息吹』を出している」

-あなたは大学で自然科学とコンピューター科学を専攻した。SF作家だけでなく、誰もが科学に親しむべきなのはなぜか。

 「宇宙のしくみを知ることは重要だ。まさに科学が私たちに教えてくれる知識だ。宇宙は、私たちの望むあり方で常に動いているわけではない。私たちの好みは宇宙に反映されない。例えば、米国では今も多くの人が自分の生まれた時の天体の位置が自分の性格を決定すると信じており、韓国でも血液型と性格には関係があると多くの人が信じている。人を特定のタイプに区分することは、心理的な安定を与えてくれるものに過ぎない」

-あなたの多くの作品は「もし~だったら」で始まる一種の「思考実験」にみえる。科学の思考実験とSFのそれとを比較すると?

 「SFの思考実験は科学分野のそれのように厳密である必要はない。SF小説の読者は『不信の猶予』(常識的には正しくない部分があっても気にせず物語に没頭する現象)を経験する。このような不信の猶予は小説では妥当だが、科学ではそれはありえない。科学者たちの思考実験は、科学を実際に発展させるために行われる。アインシュタインが望遠鏡で外を見ずに、ひとりで部屋の中で思考実験によって相対性理論を作り出したようにだ。SF作家は『子を産むことが禁止されている世の中であっても不死の人生は望ましいものなのだろうか』のような、哲学的な問いを文学作品にするために思考実験を利用する」

-あなたは、最近はAI批評で広く知られている。SF作家としての経験はAI問題について声をあげることに関係しているのか。

 「SF小説作家がAI技術者たちに向けてその想像を縛る必要があると言うのは、若干妙な状況だ。私たちが生きていく世の中で実際にどのようなことが起きるかについてのシナリオと、良い物語のためのシナリオは、区別することが必要だと思う。AI分野の多くの人は、コンピューターが人間より優れた知能を持つようになる瞬間、シンギュラリティー(特異点)について語る。『シンギュラリティー』という用語は米国のSF作家、バーナー・ビンジが提案したものだ。シンギュラリティーは小説では立派なアイデアであり、それをもとにした小説も好きだが、現実において苦悩する必要のあるアイデアではないと私は思う」

-AIのことを解像度が低くてぼやけたウェブのイメージファイル(jpeg)として隠喩した1年前の「ニューヨーカー」のコラムは印象的だった。このような隠喩はなぜ重要なのか。隠喩の持つ力とは?

 「私は別のコラムで、AIを『マッキンゼー』に例えたことがあるが、この隠喩は実は成功とは言えないものだった。多くの人はコンサルティング企業マッキンゼーのことをよく知らないからだ。そこで私は、AIは資本主義の刃をさらに鋭くする『砥石(といし)』によく例える。考えていることは同じだが、より理解しやすく表現した隠喩だからだ。隠喩は私たちに馴染みのない概念をより容易に理解させてくれるという点で重要だ。英語の『握れるハンドルを得る(get a handle on something)』という表現は『理解しはじめる』ということを意味するが、隠喩の有用性についての比喩だといえる。隠喩は有用だが、それでも隠喩は真実ではないということを常に忘れてはならない。隠喩は私たちが理解をはじめるための一つのやり方だと思う」

-個人的水準ではなく社会的水準においては、フィードバック的な発展が技術発展の重要な動力だと考える。AIも人間のように社会的学習ができるのか。社会を形成したAIが自分たちより良いAIを作り出すことはありうるか。

 「AIプログラム同士の相互作用は人間同士の相互作用と何ら共通点がない。AIは道具に過ぎない。道具に過ぎないAIをつなげて改善がなされたとすれば、それは単にその道具を利用する人間の優秀さを示すに過ぎない。遠い未来には、AIプログラムが本当に人間と同じになることもありうる。しかし、それに何の意味があるのか。すでに数十億人の人間がいるというのに。人々が協力して得られる大きな利益を望むなら、私たちはすでにどうすべきかをよく知っている。私は、AI開発の目標は、私たちが自分でできないことをできるようサポートする道具を作ることだと思う」

-あなたは、AIの時代に私たちは資本主義を手なずけなければならないと強調している。過去40年ほどの間、そして今も、私たちは経済的不平等の問題を解決できずにいる。あなたは資本主義の害悪を減らすためのAI破壊運動(ラッダイト)に言及してもいる。資本主義の問題を解決すために、私たちは何をすべきなのか。

 「簡単な解決策はない。より強い労働組合、そして労働者が投資家に代わって会社の所有者としてかかわることも有効であり得る。貸借対照表の数値だけで意思決定をする経営陣に代わって、労働者に重要な意思決定にかかわらせることもできる。ラッダイトになるということは、技術に反対することを意味するものではない。株主の利益よりも労働者の経済的正義に関心を持つこと。それが私の言うラッダイトだ。私たちが経済的正義を好む政策を望もうが、株主の利益を好む政策を望もうが、技術はどちらも支えうるということが重要だ」

-来月12日のハンギョレ人とデジタルフォーラムでどのようなことを語るのか。事前に紹介を。

 「私は、AIには本当に知能があるわけではなく、巨大言語モデルが言語を使用しているとも言えないと主張する予定だ。また、生成AIは芸術作品を作る道具ではないということも語ろうと思っている」

キム・ボムジュン|成均館大学物理学科教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )