労働者の9割、「非公式部門」に従事 捕捉困難、政府統計に疑問の声 インド

AI要約

モディ政権の10年間の高成長を遂げたインド経済が今後、世界4位の名目GDPに浮上する見通し。一方、非公式部門で働く労働者の割合が9割に達し、労働環境の問題が深刻化している。

小規模な経済活動や非公式部門での労働は社会保障や法的保護を受けず、低賃金や健康問題に直面している労働者が多い現状。政府による対策が待たれる。

非公式部門の寄与度が45%にも上る中、インドの経済成長率には上方バイアスがかかっており、公式部門との差異が問題視されている。

 【ニューデリー時事】モディ政権の2期10年で高成長を遂げたインド経済。

 国際通貨基金(IMF)によると、名目GDP(国内総生産)は来年にも日本を抜き、世界4位に浮上する見通しだ。一方、国内では当局による捕捉が困難な「非公式部門」に従事する労働者の割合が全体の約9割に上る。雇用を巡る問題は、6月まで実施中の総選挙の争点となっている。

 40度を超える気温の中、首都ニューデリーの商業エリアの一角で男性が立ち寄った人の靴を磨いていた。西部ラジャスタン州出身のバブル・シンさん(24)。この場所で約14年間、靴磨きで生計を立ててきた。幼少期に父親を亡くしたため働かざるを得ず、小学3年生までしか教育を受けていない。

 稼ぎは月1万5000ルピー(約2万8000円)ほど。「生きるだけで精いっぱい」で、税金は納めず、社会保険にも加入していない。「この小さなビジネスから抜け出したい。政府は貧しい人に社会保障を与え、助けてほしい」と話す。

 靴磨きを含む露天商や建設現場の日雇い仕事、家事労働など、行政の指導を受けない小規模な経済活動は「非公式部門」(インフォーマルセクター)と呼ばれる。国際労働機関(ILO)はインドの労働者のうち、非公式部門に従事する人の割合は9割近いと分析。地元メディアによると、こうした労働者は法律に守られず、低賃金や健康問題に苦しむ人も多い。

 一方、時事通信の取材に応じた経済学者のアルン・クマール氏によれば、国内生産への非公式部門の寄与度は約45%。非公式部門のデータを迅速に把握することは困難なため、公表されるGDPには実態が適切に反映されていないという。

 同氏は、「非公式部門」の効率は大企業を含む「公式部門」と比べて低いにもかかわらず、公式部門と同等と想定して推計データが算出されていると指摘。インドの経済成長率には「上方バイアス(偏向)がかかっている」と説明した。

 インド政府は、2023年度(23年4月~24年3月)の実質GDP成長率を7.6%と推計している。