「米国の自尊心は売れない」 USスチール、日本売却にブレーキ

AI要約

米政府が日本製鉄によるUSスチール買収を国家安全保障上の懸念から承認しない方針を示し、合併計画が危機に直面している。

USスチールは日本製鉄による買収で競争力と雇用を維持するために必要な資金を受けられると説明しており、取引が白紙化される場合、工場閉鎖や本社移転の可能性が浮上している。

日本製鉄は取引の継続を強く主張しており、国家安全保障上の懸念はないと説明しているが、米国メディアや政治家の反対が激化している。

日本製鉄によるUSスチール買収合併(M&A)計画が座礁危機を迎えた。ニューヨーク・タイムズ(NYT)やワシントン・ポスト(WP)などは4日(現地時間)、政府消息筋を引用してバイデン大統領が国家安全保障を理由に日本製鉄のUSスチール買収を承認しない方針だと報じた。

ロイター通信のこの日の報道によると、消息筋を引用して、対米外国投資委員会(CFIUS)が先月31日、日本製鉄に書簡を送って今回のM&Aが国家安全保障に脅威になるという内容を伝えた。米国2位のUSスチールが日本製鉄に買収される場合、自動車など幅広い産業の根幹である鉄鋼生産に支障をきたす場合があるという論理だ。CFIUSは外国企業の米国企業買収承認権限を有する財務省主導の政府機構だ。M&A白紙化展望の報道に対し、この日USスチールの株価は対前日比17.5%下落した。

USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)はこの日、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで「日本製鉄が30億ドルほど投資すると約束した」とし「この資金はUSスチールが競争力を維持して職員の雇用を保全するのに必要な資金」と述べた。さらに「もし交渉が決裂すれば、そうすることができない」とし、日本製鉄の資金と技術がなければUSスチールは米国内の複数の工場を閉鎖し、本社もペンシルベニア州ピッツバーグから他の場所へ移転しなければならなくなると警告した。

ブリット氏は「政界が何の代案もなく売却に反対している」と批判した。

◇売却白紙化展望報道にUSスチール株が暴落

日本経済新聞や共同通信などによると、日本製鉄は5日の声明で「CFIUSからの審査結果は受理していない」とし「本買収が国家安全保障上の懸念がないことを米政府に明確に伝えてきた」と明らかにした。続いて「日本製鉄によるUSスチールへの投資は、日本製鉄だけが実行可能」とし「USスチールとアメリカの鉄鋼業界全体は、より強固な基盤を築くことができる」とした。

日本製鉄は昨年12月に149億ドル(約2兆1360億円)を投じてUSスチールを買収するという計画を明らかにした。鉄鋼生産量世界4位である日本製鉄は世界24位であるUSスチールを買収して世界3位に浮上しようという構想だった。日本製鉄とUSスチールは同月、CFIUS審議を要請し、ホワイトハウスは当時日本製鉄のUSスチール買収を承認する前に今回の取り引きが国家安全保障などに及ぼす影響を綿密に検討するという立場を明らかにした。

USスチールの株主は投票で圧倒的な賛成側だったが、全米鉄鋼労働組合(USW)など労組は反対に出た。一時米国製造業の拠点であったペンシルベニアは11月の米国大統領選挙の行方を決める核心激戦州(swing state)であるだけに、USスチール売却は大統領選挙のイシューとなった。民主党候補のカマラ・ハリス副大統領、共和党候補のドナルド・トランプ前大統領ともにラストベルト(衰退した工業地帯)の労働者投票者の気持ちを考慮して合併反対の意思を明らかにした。米国製造業の象徴であるUSスチールを日本製鉄に渡すことはできないと主張した。

◇日本製鉄「買収価格2兆円、米国企業として維持」

大統領在任当時、保護貿易主義を掲げていたトランプ氏は今年1月「再執権したら買収を阻止する」と公言した。大統領選挙挑戦を準備したバイデン氏も3月、買収に反対の意思を明らかにした。

バイデン氏の大統領選候補辞退を受けて民主党大統領候補になったハリス氏は、米国メーデーである今月2日、バイデン氏と共にピッツバーグを訪れて「USスチールは米国人が所有して運営する企業として残るべきだといううバイデン大統領の立場に完全に同意する」と宣言した。WPは「米国の同盟である日本企業が参加した取り引きを無にしようとする動きは、ハリスが労組組合員の支持を得ようとする過程から出たもの」と伝えた。

ハリス氏の発言直後、日本製鉄は「米国内の生産能力を強化して、最先端技術を導入する」とし「USスチールを米国企業として維持する」と約束した。USスチールを買収しても理事会のほとんどを米国市民権者にし、3人の社外重役も米国市民権者で構成すると発表した。解雇や工場閉鎖をしないという約束もした。

交渉破談は米日間の外交問題になる可能性がある。日本製鉄は買収が中止になれば5億6500万ドルの違約金が支払う必要が生じる。日経は野村証券の報告書を引用して「USスチール買収は日本製鉄にとって重要な成長戦略と考えられ、当局の承認が得られなかった場合は、新たな成長戦略などが経営に求められる」と伝えた。買収白紙化は日本製鉄にとっても危機になる場合があるという意味だ。米日経済協議会は5日に声明を出して「(買収を)政治的に利用しようとする動きに多くの懸念がある」として公正な審査を要求した。

今年で123年の歴史があるUSスチールは「鉄鋼王」アンドリュー・カーネギーとジョン・ピアポント・モルガンが設立した会社だ。

一時は世界最大の鉄鋼会社で米国製造業の象徴だったが、20世紀後半、韓国・中国・日本などの鉄鋼会社が躍進して経営悪化に苦しめられてきた。