<eye>侵攻から2年半 愛する人の解放待ちわびて ウクライナ

AI要約

ウクライナ南東部の港湾都市マリウポリでのロシア軍包囲による市民の苦境とアゾフ大隊の抵抗。捕虜となった兵士の解放交渉に焦点が当てられている。

家族や支援者によるアゾフ兵士の解放を求める街頭デモが続く一方、避難した家族も存在し、困難な状況が続いている。

長期にわたる戦争が家族や個人につらい選択を迫る状況にあり、一部は家族の病気などの苦難と闘いながら生活している。

<eye>侵攻から2年半 愛する人の解放待ちわびて ウクライナ

 ウクライナ南東部にあるドネツク州の港湾都市マリウポリ。アゾフ海に面する人口約40万人の街は開戦直後、ロシア軍によって包囲された。

 産科医院や劇場などあらゆる施設が爆撃され、犠牲者は2万人超。そして、追い込まれた市民は街の中心にある製鉄所に立てこもった。その防衛にあたったのがウクライナ内務省傘下の戦闘部隊「アゾフ大隊」だ。

 2022年2月の開戦から3カ月後、後方支援も絶たれ、満身創痍(そうい)となったウクライナ軍は投降を決断。この時、捕虜となった兵士は2400人以上とされる。ロシア軍に徹底抗戦を挑んだアゾフ兵士の解放交渉は難航を極め、今も約900人が捕らわれの身になっていると言われている。

 「フリー・アゾフ!」(アゾフ兵士を解放せよ)。昨年12月から首都キーウ(キエフ)では、毎週末に街頭デモが行われている。運動の中心になっているのは、夫や息子が捕虜になっている家族だ。

 アゾフ大隊司令官の妻で、デモの中心メンバーの一人、カトリーナ・プロコペンコさん(29)はいう。「顔をさらすことでロシアのスパイに拉致されないかと不安になる。しかし、これ以上黙っているわけにはいかず、声をあげた」

 日照りの日も豪雨の日も、プラカードを持って集まる家族や支援者たち。デモの輪は全国の都市に広がった。その一方、海外に避難し、孤立する家族もいる。

 22年に取材したアンナ・ザイツェバさん(27)は生後8カ月の幼子を守るため、ドイツへ避難した。今、どんな思いでいるだろうか。8月初めに連絡を入れると、こんなメールが返ってきた。「夫のキリルは捕虜のままで、生きているかどうかわからない。私はもう、あきらめざるを得ません」

 一緒に避難した母にがんが見つかり、アンナさんは育児に追われながら闘病生活を支えているという。開戦から2年半。長引く戦争はウクライナの人々につらい選択を迫っている。【尾崎孝史(写真家)】