K-POPアイドル目指す韓国の子どもたち ソウルと釜山、元練習生が指摘する「異次元の格差」

AI要約

ダンス塾でアイドルを目指す子どもたちの熱意と努力が紹介される。釜山市のダンス学院に通う小学生の取り組みやオーディション挑戦などが描かれている。

ソウルと地方のダンス学院の格差や競争の激しさ、しかし地方ならではの魅力も示唆されている。

過去の経験をもとに、ソウルに通わずとも地方からアイドルを目指すためのヒントが示唆されている。

K-POPアイドル目指す韓国の子どもたち ソウルと釜山、元練習生が指摘する「異次元の格差」

 世界から熱い視線が注がれる韓国のK-POPアイドル。国内の人気も絶大で、多くの子どもたちがスターを目指してダンス塾(学院)に通っている。ただ、大手芸能事務所が集まるのは首都ソウル。競争が激しい狭き門に加え、地方だと距離の壁も立ちはだかる。ソウルから離れた釜山市で取材すると、子どもや学院関係者がそれを必死に乗り越えようとしていた。(釜山・平山成美)

 今月中旬、流行曲が響き渡る釜山市にあるダンス学院の一室。小学4年のソウンさん(9)=仮名=が瞬間的に見せる視線やポーズは、既に人気アイドルのようだった。ソウルの大手芸能事務所のオーディションに挑戦中で、取材の日は3次試験の合格発表を待ちながら練習に励んでいた。

 このダンス学院は、人気音楽グループBTSメンバーのジミンさんを輩出した「ジャスト ダンス」。BTSのファン(通称アーミー)にとってはまさに聖地で、観光ツアーにも組み込まれているほど。子どもたち約200人が通う。

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 「韓国でダンスは、アイドルを目指す一握りの少年少女の習い事だった時代があり、元々世間体は良くなかったです」。同学院の金基潤(キムギユン)代表はこう振り返る。

 親世代の認識が変わってきたのは、近年トップアイドルの教養や人間力の高さが知られるようになってからという。国技のテコンドーと並び、子どもたちにとって「当たり前の習い事」へと変わりつつある。釜山市によると、ダンスや歌の学院は大小含めて市内に千以上あるというのだ。

 控えめな性格を案じた両親の勧めで、ソウンさんは2年前から友人と学院に通い始めた。次第にダンスが楽しくなり、テレビやネットで音楽番組にはまっていく。歌の学院を含めて毎週4日(毎回1時間ほど)も通う忙しさ。毎月の費用負担は計9万円弱だという。

 現在進行中のオーディションを受けたきっかけは学院が毎年開く公演だ。金代表が芸能事務所の担当者を招き、ソウンさんには3社から声がかかった。

 「彼女のように才能がある子は、釜山でもどこにいても必ず見つけてもらえる」と金代表。3次試験が合格すれば、事務所の練習生として「週4日釜山、週3日ソウル」の生活に移り、夢はさらに近づいてくる。

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 「ソウルと比べ、機会と情報の格差は次元が違う」。かつて釜山市からアイドルを目指した元練習生で同市職員、金良垠(キムヤンウン)さん(31)はこう振り返る。

 誰でも参加できる芸能事務所の「公開オーディション」は基本ソウルで行われる。良垠さんは高校時代、学校前で大手事務所(現在の「HYBE(ハイブ)」)による釜山開催のオーディションのチラシを受け取った。ただ、今から考えると本当に偶然。選考を機に、ソウルの大学に進学し2015年ごろまで芸能事務所の練習生として活動したが、デビューはかなわなかった。

 良垠さんは「ソウルの芸能事務所とつながる学院に通わなければ、釜山から引っ張られるのは難しいでしょう」と指摘する。

 釜山市のダンス学院「グルーブダンススタジオ」の文盛渼(ムンソンミ)院長もダンサーの一人として、地方の壁を実感してきた。ソウルの知人は、人気女性グループ「NewJeans(ニュージーンズ)」の振り付けを手がけたり、東京ドームコンサートのバックダンサーを担ったり活躍している。「移動だけで時間と費用が必要な釜山在住者は、芸能事務所のキャスティングでも不利になる」と漏らした。

 ただそれでも「ソウルより人数が少ない分、魅力や個性を見つけやすい」と地方の利点も見いだす。将来活躍できる“原石”を送り出そうと、子どもたちの才能を引き出す努力を続けていきたいという。