【解説】 テレグラムのCEO逮捕、ロシアの政府やメディアの反応は
ロシアの富豪であるパヴェル・ドゥロフ容疑者がフランスで逮捕された事件について、捜査関係者の話やロシア政府の関与が疑われている。ドゥロフ容疑者の逮捕理由や今後の動向が注目されている。
フランス検察当局はドゥロフ容疑者をサイバー犯罪捜査の一環で逮捕し、さまざまな容疑が持たれている。ドゥロフ容疑者は12件の容疑をかけられ、7月28日までの勾留が決定された。
事件の背景には、テレグラムの創設者として知られるドゥロフ容疑者の影響力があり、西側諸国やロシア政府との関係、言論の自由などの問題が浮上している。
スティーヴ・ローゼンバーグ・ロシア編集長
ロシア生まれの富豪で、メッセージアプリ「テレグラム」の創設者であるパヴェル・ドゥロフ容疑者(39)が24日夕方、仏パリの空港で逮捕された。それ以来、その運命については確定事項よりも憶測の方が多くなっている。
このことは、ロシアの新聞の見出しもに要約されている。ニェザヴィシマヤ・ガゼータは、「『ロシアのザッカーバーグ』ことパヴェル・ドゥロフの逮捕(または拘束)は、最も重要だが謎に包まれた世界的なニュースの一つだ」と断言した。
確かにそうだ。
しかし、「謎に包まれた」という表現は少し控えめかもしれない。
なぜフランス警察はドゥロフ容疑者を逮捕したのか。どんな罪状で起訴されるのか。この拘束はドゥロフ容疑者の最近のアゼルバイジャン訪問と関係があるのか。彼はそこでロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会ったとも、会っていないともされている。
この2日間、ジャーナリストらは「捜査関係者の話」をもとにドゥロフ容疑者の容疑について報じている(それらは麻薬密売の共謀疑惑から詐欺疑惑まで多岐にわたっている)。テレグラムは声明で、同社の最高経営責任者(CEO)である同容疑者には「隠すことが何もない」と発表している。
パリ検察当局は26日、ドゥロフ容疑者はサイバー犯罪捜査の一環で拘束されたと発表した。声明によると、組織犯罪に関連する捜査で12件の容疑が挙げられており、違法送金や児童ポルノ、詐欺、当局への情報開示拒否などが含まれている。
その上で検察は、ドゥロフ容疑者の勾留は延長され、28日までとなったと述べた。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ドゥロフ容疑者の逮捕後にフランスに関する「誤った情報」を目にしたとし、「これは決して政治的な決定ではない。決めるのは判事だ」とソーシャルメディアに投稿した。ただし、詳細は明らかにしなかった。
一方モスクワでは、クレムリン(ロシア大統領府)が警戒を強めている。
ドミトリ・ペスコフ報道官は26日、「我々はまだドゥロフにかけられている容疑を正確に知らない」と述べた。
「公式の発表を聞いていない。これについて何か言う前に、明確な情報が必要だ」
ロシアでは明確な情報は、誰もが必要だと感じているわけではない。
26日には、国営テレビの看板政治番組で、この出来事が大きく取り上げられた。
ある政治アナリストは、「ドゥロフに対する疑惑はすべてばかげている」と切り捨てた。「プラットフォーム上で起きた犯罪を全て彼のせいにするのは、フランスで起きた犯罪を全てマクロン大統領のせいにするのと同じ論理だ」。
ロシアの新聞各紙も大きく騒いだ。いくつかの日刊紙は、ドゥロフ容疑者の拘束がロシアに深刻な影響をもたらすのではないかと懸念を示した。
ニェザヴィシマヤ・ガゼータは、「テレグラムへの一撃はロシアへの打撃となる恐れがある」と指摘。「パヴェル・ドゥロフが拘束されたことで、西側の情報機関はテレグラムの暗号鍵を手に入れるかもしれない」と書いた。
モスコフスキー・コムソモーレツは、「パヴェル・ドゥロフがフランスの情報機関に従うことを強いられれば、テレグラムは北大西洋条約機構(NATO)のツールになるかもしれない」と分析。「テレグラムのチャットには、非常に重要な戦略情報が大量に含まれている」と述べた。
ロシアでは2018年、ドゥロフ容疑者がユーザーデータの引き渡しを拒んだことを受けて、テレグラムの利用が禁止された。撤回されたのは2020年だ。そして今や、ロシア政府高官だけでなく、いわゆる「特別軍事作戦」(ロシアのウクライナ侵攻)で戦う兵士を含むロシア軍も、このアプリを使っている。
26日付のモスコフスキー・コムソモーレツは、「もしテレグラムがクラッシュしたら、(我が軍は)どうやって戦うのか」と問いかけた。
西側諸国では、パヴェル・ドゥロフ容疑者の拘束が、言論の自由についての議論を巻き起こしている。
ロシアでも、政府の人権オンブズマン、タチアナ・モスカルコヴァ氏が「パヴェル・ドゥロフが逮捕された本当の理由は、世界で起きていることの真実を発見できるプラットフォームであるテレグラムを閉鎖することだった。言論の自由のために努力する人は皆、これに抗議する」と述べた。
モスカルコヴァ氏は、ロシア当局が今月初めにアクセスをブロックしたメッセージアプリ「シグナル」や、ロシアでアクセスが厳しく制限されているユーチューブについては言及しなかった。フェイスブックとインスタグラムは、同国ではすでにブロックされている。
では、8月に入ってアゼルバイジャンのバクーで、プーチン大統領とドゥロフ容疑者が会談したといううわさはどうなのだろうか? 会談は本当にあったのか?
私が尋ねると、ペスコフ報道官は「なかった」と答えた。
この謎めいた話がどのような結末を迎えるにせよ、ロシア政府はこれを利用して、「ロシア市民は西側に用心すべきだ」という公式シナリオを強化するだろう。
有名タブロイド紙コムソモリスカヤ・プラウダはこう書いている。「西側諸国にとって、『善良なロシア人』などもはや存在しない」。
(英語記事 In Russia, questions swirl over arrest of Telegram boss)