【時視各角】尹政権の経済政策、道を失う

AI要約

韓国経済が半導体の好況に支えられながらも、庶民の生活が困難な状況であることが示されている。

尹錫悦政権が民生回復に取り組んでいるが、成果が上がらない要因として財政健全性や政策の矛盾が指摘されている。

財政健全性のみを重視する姿勢や部処間の連携不足、政策の矛盾が韓国経済に深刻な影響を与えている。

半導体の好況で輸出は好調だが、庶民の生活が崖っぷちに追い込まれていることを知らせる指標が次々と出ている。失業給与の新規申請が1年前に比べて7.6%増え(7月、11万2000人)、小売販売額が15年ぶりに最大幅で後退した(4-6月期、-2.9%)。国民年金の受給額が減るのを覚悟して操り上げて受ける早期受給者(新規)は昨年11万人を超え、2022年に比べて約90%増えた。多くの庶民が保険を解約し、カードローンや迅速融資で乗り越えている。深刻な二極化が韓国経済に広がっている。

尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権も民生回復に向けて熱心に取り組んでいる。にもかかわらず成果が上がらないのなら、政策の方向性と執行過程に問題がないか考慮しなければいけない。

1つ目、財政健全性にとらわれている。2024年の予算編成が出発点だった。2005年以降の最低増加率(2.8%)だった。今年も財政健全化が経済政策全般を押さえつけている。文在寅(ムン・ジェイン)政権で国家債務が400兆ウォン(約43兆円)も増えたため、放漫な財政運用の正常化は当然の課題だ。ところが物価のために金利を引き下げにくい状況で財政緊縮までが行き過ぎれば、民生の景気は冷え込むしかない。「この政府は財政健全化を前に出しながら各自の力で生活していくべきだとした」という金鍾仁(キム・ジョンイン)元国民の力非常対策委員長の指摘(中央日報8月2日付インタビュー)はよく考えてみるべき点だ。

2つ目、部処間の調和がない。代表的なのが金融と不動産だ。政策金利はコロナ流行時より3%高い。不況であるにもかかわらず金利は高く、元利金償還猶予も終わったため自営業者はかなり厳しい。大統領室が利下げを勧めるのも無理はない。しかし利下げは家計の負債増加、不動産の不安定などの副作用を招く。利下げが政府の方向なら、不動産供給にあらかじめ焦点を合わせて住宅貸出制限を厳格にするべきだった。しかし供給対策は十分でなかったし、政策貸出は大きく増えた。監督当局は貸出規制の強化(2段階ストレスDSR導入)を遅らせた。大統領室、企画財政部、国土部、金融監督院が別々に動く状況だった。結局、不動産価格が上昇し、家計の負債が急増し、利下げ条件ばかりが悪化した。

3つ目、政策間の矛盾が激しい。与党は金融投資所得税の廃止、相続税率の引き下げに熱を上げている。ところが税収が良くない。上半期の管理財政収支の赤字は100兆ウォンを超えた。国税収入は深刻だった昨年より10兆ウォン減少した。税金廃止は財政健全化と合わない。少なくとも税収不足を埋める代案、または減税が歳入増大に帰結するという確信を与えなければいけない。株式市場の活性化が優先目標なら話は変わる。しかしその場合なら、外国人投資家が問題にする空売り全面禁止をしてはならなかったし、企業価値を高めるバリューアッププログラムをさらに強化しなければならなかった。

尹政権がベンチマーキングする李明博(イ・ミョンバク)政権の話をせざるを得ない。2008年のグローバル金融危機の克服はタダで得られたのではなかった。初代経済指令塔だった姜万洙(カン・マンス)元企画財政部長官は「長官職は長くできないと覚悟し、為替主権化、経常収支黒字、総合不動産税廃止の3つは必ずして離れると誓った」と話した。姜氏は総合不動産税廃止のほかは実際にそのようにした(総合不動産税は大幅減免)。「危機の時は対外均衡が対内均衡より先」という問題意識と目標が明確だった。後任の尹増鉉(ユン・ジュンヒョン)長官は就任会見(2009年2月10日)で同年の成長率予測値を当初の3%からマイナス2%に大幅に引き下げた。一大ショックだった。尹氏は「市場と国民の信頼を得る第一歩は政府の正直さ」と語った。このため28兆ウォンの補正予算に国会の支持を受け、景気振興に着手することができた。

1900兆ウォンの家計負債、高騰する住宅価格など政策環境が良くない。そうであるほど政策の優先順位を明確にし、経済部処間のチームワークを強めなければいけない。政府が道を失えば「現金ばらまき」のようなポピュリズムが民心に響くことになる。

イ・サンリョル/首席論説委員