光の届かない深海で「暗黒酸素」が生成されていた...光合成だけでない「地球の酸素供給源」とそれを脅かす採掘の脅威

AI要約

地球が誕生した際、酸素はほとんど存在せず、光合成によって酸素が生成されるようになりました。

海中の植物が酸素を生成している現在でも、深海においては岩石塊が天然の電池として働き、酸素を生成する可能性が示唆されています。

ポリメタリック・ノジュールと呼ばれる深海の金属鉱物塊は、クリーンエネルギー技術に重要な金属を含んでおり、海底資源の採掘が進行中ですが、環境への影響が課題となっています。

光の届かない深海で「暗黒酸素」が生成されていた...光合成だけでない「地球の酸素供給源」とそれを脅かす採掘の脅威

地球が約46億年前に誕生した時、地球の大気中には酸素がほとんど含まれていませんでした。太陽光を利用して光合成を行うラン藻(シアノバクテリア)が約27億年前に海中に誕生し、二酸化炭素と水から有機物と酸素を生成するようになると、大気中の二酸化炭素は減少し、酸素が増えはじめます。【茜 灯里(作家・科学ジャーナリスト/博士[理学]・獣医師)】

その後、生物は陸上に進出し、多様な植物が光合成を行うようになりますが、現在でも地球の酸素の3分の2は海中の植物プランクトンや海藻によって作られています。

とはいっても、海の中で光合成ができる場所は、太陽光が十分に届く海面から70~80メートルまでに限られます。それより深いところにいる生物は、これまでは海中に溶けた酸素(溶存酸素)に依存していると考えられてきました。

スコットランド海洋科学協会(SAMS)やアメリカのノースウェスタン大、ボストン大などによる国際研究チームは、光の届かない深海では海底にある多種類の金属を含んだ岩石塊(ポリメタリック・ノジュール、多金属団塊)が天然の電池として働き、海水を電気分解して酸素を生成している可能性を示しました。研究成果は、地学分野の学術誌「Nature Geoscience」に7月22日付で掲載されました。

もし、深海の団塊が地球の酸素生成に大きな役割を果たしているとすれば、これまでの学説が大きく変わるかもしれません。研究者たちは、どのようにしてこの仮説に行きついたのでしょうか。概観してみましょう。

<謎多きポリメタリック・ノジュール>

深海の地形は、地上と同じように山脈(海嶺)や谷(海溝)、平原(深海平原)などがあって多様です。

なかでも、深海平原には、黒いジャガイモのような物質がたくさん散らばっています。この塊がポリメタリック・ノジュールで、魚の歯や小石などを核として、その周囲に鉱物層が堆積したものと考えられています。生成の仕組みはまだ分からないことも多いですが、ジャガイモ大の大きさになるには数百万年以上かかると推定されます。

ポリメタリック・ノジュールは、マンガンや鉄、銅に富むだけでなく、陸地で採掘される鉱石の約3倍のニッケル、4倍のイットリウム、6倍のコバルトが含まれています。レアメタルのテルルにいたっては、数千倍に濃縮されたものが発見されると言います。

これらの金属は太陽電池や電気自動車、風力タービンといったクリーンエネルギーを用いた技術には必要不可欠であるため、約50年前から「宝の山」である海底資源の採掘が試みられています。けれど、採掘による深海環境や生態系への影響は、近年になって研究が進んでいる分野のため、世界の海域で採掘許可の基準ができるにはまだ時間がかかりそうです。