【コラム】最上位学生の大半が医師になる国は未来がない=韓国(1)

AI要約

大韓民国の医師の過剰所得と医学部集中現象についての課題が示唆されている。医師の高所得と必須医療の不足による専攻科別の所得格差が問題視されている。

医師の増員拡大や収入格差の是正が必要であり、医療システムの見直しが求められている。

政策の失敗による問題点が浮き彫りになり、医療分野のバランスの取れた発展が必要とされている。

先日、米プリンストン大で経済学博士学位を取得した同じ大学の韓国人新任教授と一緒に昼食をした。彼の専攻は財務理論で、高難度数学を使う分野だ。その彼が数学の問題を解きながら行き詰まった時に訪れる高校の同窓生がいるという。驚くことにその友人の職業は数学とは関係がほとんどない大学病院の医師だった。数学の天才のその医師は学生時代に数学オリンピックで活躍し、全国首席に近い検定試験の成績が惜しくて医学部に進学したという。韓国の理系学生のうち全国の首席から3058位までが医科大学に進学するという話を実感した瞬間だった。来年からは医学部の定員が1509人増えるため、今後は首席から4567位までが医学部を志願することになるのだろう。

◆制度・政策の失敗による医師の所得増加

世界に類例がない極端なミスマッチだ。大韓民国の最上位の学生らは自分が好きで得意な専攻を選択しない。なぜか。私は2024年1月11日付のコラム「労働市場の格差解消が教育過熱・少子化解決のカギ」で、極端な医学部集中現象の原因は医師と他の職種の生涯所得の過度の格差にあると説明した。大韓民国で医師だけが定められた引退年齢なく長く安定的に高所得を手にする。

1998年の通貨危機以前まで、大韓民国の最上位圏の学生の多数が工学や自然科学に進んだ。このような学生が大韓民国を今日のような先進国に導いた製造業を率いた。ところが過去20年間に医学部集中現象が加速した。医師が働く病院産業が国富創出の通路となり、大韓民国を飛躍させることができるのならよい。しかし病院産業は製造業や技術企業と比較して内需依存的であり、国富創出効果が低い。たとえば医師としては国内の患者が大半である上級総合病院が成就の最高点だ。しかし科学技術が商用化されれば世界が舞台となり、輸出が増え、国富が創出される。国家が競争力を持って発展するには最も優秀な人材が理工系に進学しなければいけない。最上位の学生の大半が医師になる国には未来がない。

医師と他の職種の間の過度な所得格差を減らすことがカギであるなら、その方法は2つある。1つは工学部および自然系出身者の収入を増やすことだ。もう一つは医師の収入を減らすことだ。もちろん望ましいのは前者だ。しかしこれは言葉で話すように簡単なことではない。技術革新による生産性の向上と巨大な高所得先端産業が必要だ。しかし医学部に集中するあまり、この分野の人材が枯渇している。2つ目の方法も必要だ。医師の所得増加は医療技術の革新よりも制度と政策の失敗に起因しているからだ。しかし特定職群の収入をむやみに減らすのは下手なやり方だ。どうすればよいのか。

まず医学部の増員拡大はそのための必要条件に近い。これまで医学部増員の議論はこうした国家経済の大きな絵を見るよりも、高齢化による今後の医療需要増加など医療サービス体系の範囲を超えなかった。ロースクール制度が導入されて弁護士輩出数は2.5倍以上に増えた。その結果、国民の法律サービス接近権が改善し、弁護士の平均収入は減少した。医療界でも一定部分こうした変化が必要だ。

医療界は、医大生の数が一度に過度に増えるため医学教育と今後の医療の質が心配になるという。妥当な指摘だ。それで2025年の入試で1500人の増員は過度な側面がある。500-1000人の間で増やしていくのが良いアプローチだ。

◆必須医療の不足、専攻科別の所得格差のため

すべての医師の収入が大きく増えたわけではない。医師の間でも専攻別に所得格差が過度に開いた。その主犯は実損医療保険だ。実損医療保険件数は4000を超える。このため本人負担金が大幅に減り、健康保険非給与項目に対する接近性が大きく増えた。全国民の間で実損保険を利用するための競争が始まった。医療利用が爆発的に増えたが、その多くはモラルハザードによる不必要な医療利用だ。政府は20年間、事実上これを放置した。

医師の収入も実損保険利用の可能性によって大きく変わった。2021年の保健医療人材実態調査によると、皮膚科、眼科、整形外科、リハビリ医学科のような人気科の平均年俸は2020年基準で約3億8579万ウォン(約4500万円)だった。半面、内科、外科、産婦人科、小児青少年科のような必須医療科目の平均年俸は約2億3396万ウォンだ。この2つのグループ間の所得格差は過去10年間で大きく広がった。たとえば人気科目の収入は2010年比で1.9-2.4倍増えた半面、小児青少年科専門医の年俸は16%減少した。

現在の医療システムは医師が必須医療を避けて皮膚美容または非保険診療が多い分野を好むよう誘導している。大韓医師協会の分析によると、美容整形医療を専門とする医師は約3万人だ。しかし皮膚科と整形外科の専門医数は5000人にすぎない。残りの2万5000人の大半は必須医療専門医だ。こうした状況が発生した理由は政策の失敗のためだ。実損保険と非保険診療をまともに管理できず、必須医療分野の報酬を果敢に引き上げることができなかった。