街にあふれる大麻ショップ、薬物犯罪は「4~5倍に」 タイで「解禁」2年、再規制の動きも

AI要約

タイで大麻が解禁され、医療用途以外の吸引が増加している。政府は再規制を検討している。

大麻の使用者の大部分は娯楽目的であり、大麻ショップの数が急増している。

大麻解禁により精神障害治療の費用が急増し、薬物関連犯罪も増加している。政府は規制強化や依存者の治療に取り組んでいる。

街にあふれる大麻ショップ、薬物犯罪は「4~5倍に」 タイで「解禁」2年、再規制の動きも

 【バンコク稲田二郎】タイで大麻が一部解禁されて6月で2年を迎えた。医療用に限って使用が認められたが、娯楽目的の吸引が横行し、街中には大麻ショップがあふれている。薬物に関する犯罪が「4~5倍に増えた」(タイ政府高官)ことから、セター首相が5月に大麻の再規制を指示するなど、今なお試行錯誤が続いている。

 タイ政府は2022年6月9日に大麻を麻薬指定から除外。医療目的で大麻を販売、使用できるようにした。娯楽を目的に公共の場で吸引するのは禁止だが、自宅での吸引などは法律に記述がない“グレーゾーン”で、ほぼ解禁状態なのが実態だ。

 タイの保健システム研究所(HSRI)などが5月2日に発表した調査結果では、使用者の60%が娯楽目的、34%がストレス解消と睡眠のためで、医療目的はわずか6%だった。大麻ショップは昨年8月の約5600店から今年4月には7747店に増加。販売価格は1回の使用量に当たる1グラム当たり250~千バーツ(約1100~4400円)程度という。

 バンコクの繁華街にある大麻ショップの20代店主は「客は1日に10~30人ぐらい。ファラン(西洋人)が多いが、日本人もいる」。店舗間の競争激化で「ぎりぎり赤字にならないぐらい」の経営状況という。10カ月前にオープンした別の店の30代店員は「身分証がないと売らないし、脳への影響なども説明している」と語った。

 タイ精神医学協会は、大麻解禁後に精神的な不調を訴える人が増え、年間32億~38億バーツだった精神疾患の治療費が150億~180億バーツに急増する見通しを示した。具体的なデータは明らかにされていないが、「薬物に関する犯罪は以前の4~5倍に増えた」(タイ政府高官)といい、セター首相は5月8日の関係閣僚会議で、使用を医療目的に厳格化するために規制強化を図るよう指示した。薬物依存者の治療にも力を入れる方針で、実験的に軍事キャンプでの治療も検討されている。

 大麻の解禁は、新型コロナウイルス禍で落ち込んだ外国人観光客を呼び戻すとともに、有力政治家の支持基盤である農家に新たな収入源を提供する狙いがあったとされる。ただ、現地メディアは「(政府から販売許可を受けていない)違法な大麻業者が増えて過当競争になり、正規業者の倒産などが相次いで経済的な目的は達成できていない」と指摘している。