クイズ王・伊沢拓司でも田村正資でもなく…高校生クイズ“14年前の伝説”開成高校にいた「無名の天才」とは?「自分は完全に地頭だけで…」

AI要約

2008年、開成中学・高校のクイズ研究部が全国大会の決勝に進出するも敗北し、伊沢拓司は悔しさを感じる。

伊沢はクイズのジャンルについてのコンプレックスを持ちながらも、クイズのエンタメの力に感動する。

伊沢は高校生クイズで勝利することでクイズの認知度を高め、立ち位置を変えようと決意する。

クイズ王・伊沢拓司でも田村正資でもなく…高校生クイズ“14年前の伝説”開成高校にいた「無名の天才」とは?「自分は完全に地頭だけで…」

 今年も“夏の風物詩”高校生クイズの季節がやってきた。長い歴史を誇る同番組だが、その歴史の白眉のひとつとなったのが「QuizKnock」を立ち上げ、現在各メディアで活躍する“クイズの帝王”伊沢拓司を生み出したことだろう。では、そんな伊沢擁する開成高校がはじめて全国の頂点に立った2010年、その舞台裏では何が起きていたのだろうか。《NumberWebノンフィクション全4回の1回目/つづきを読む》

「なんだよ。開成、負けてんじゃん――」

 中学2年生だった伊沢拓司は、自分の耳を疑った。

「冗談だろ、全国大会の決勝だぜ?」

 いまから16年前の2008年8月のこと。全国屈指の進学校として名高い開成中学・高校の校内ではこの日、「全国高校生クイズ」の決勝戦のパブリックビューイングが行われていた。

 この年から同大会は、いわゆる「知の甲子園」と呼ばれる難問路線に舵を切っていた。

 それは良くも悪くも、「知力・体力・時の運」と言われた日テレ系クイズ番組にお馴染みだった世界観から「運」や「バラエティ」の要素を極力取り除き、スポーツと見紛うような知力におけるガチンコのクイズバトルを生み出していた。

 そんな転機を背景に、同校のクイズ研究部は史上初めて全国大会の決勝の舞台まで駒を進めていた。それを受けて急遽、全校応援の形が取られたわけだ。

 当時14歳の伊沢少年は、クイズに熱中する自分を「ちょっとカッコ悪い」と思っていた。

 もちろんクイズは好きだった。そのために知識を集め、それを洗練させてライバルたちと戦うこと自体は魅力的だった。その一方で、一般的にはクイズというジャンルに「地味」「オタクっぽい」といったイメージがあることは自身も理解していた。散髪に行った美容室では部活をたずねられると「フットサル部です」と答えていた。

 でも、もしかしたらそんなコンプレックスを先輩たちが晴れの舞台で払拭してくれるかもしれない。だって、テレビ中継まである全国大会の決勝だぜ――? 

 そんな誇らしい思いは、冒頭のような同級生たちのリアルすぎる声にかき消されてしまった。

「悔しかったですよ、単純に。もちろん相手の東海高校はめちゃくちゃ強くて、先輩たちの分が悪いことは客観的に見ても分かってはいた。でも、だからって外野から自分たちの努力をないがしろにされるのは、やっぱり悔しかった」

 のちにクイズ集団である「QuizKnock」を設立し、いまでは「クイズブーム」の火付け役として押しも押されもせぬ存在となった伊沢は、かつてをそう振り返る。

 普段からともに切磋琢磨する部の先輩たちが、テレビ画面の中で全国の頂点を争っていた。劣勢だったとはいえ、他のスポーツで全国大会の決勝まで進んで、校内で苦言を呈されるチームなど見たことがない。そこにこそ当時のクイズという競技の立ち位置が表れているとも言えた。

 ただ、悔しさを感じると同時に、そんな状況だったクイズというジャンルにこれだけの人を集める「高校生クイズ」というエンタメの持つ力も同時に感じていた。

「当時は先生たちもクイ研の存在なんて全然、気にもしていなかった。予算もない。ボロボロの早押し機を使って必死に活動していたんです。その皆の努力はクイズだからって、他の部活と比べて下に見られていいはずがない」

 クイズという競技を皆に認めさせる。そのためには、この「高校生クイズ」はチャンスだと思った。もちろん競技クイズの文脈で言えば、もっと権威のある大会は山ほどある。それでも、一般の人への影響力という側面から見れば、地上波のゴールデンタイムで放送される同大会は段違いのものがあった。

「やっぱりクイズの世界の内側の人じゃなく、外の人からどう見えるかは大事なんです。僕らが青春を懸けたものが、すごいものなんだと分かってほしかった」

 同級生の「なんだよ、負けてんじゃん」を「すげぇな、開成」にする。

 それができれば自分たちの評価も、もっと言えばクイズそのものの立ち位置も、きっと変わる。それには、どうするか。簡単だ。圧倒的な力で頂点に立てばいい。

「自分が高校生になった時に、絶対にここで勝ってやろう。そうすれば全部変わる――そう思ったんです」