「ドヘニーは身も心も削られていた」元世界王者・飯田覚士が分析する井上尚弥の“打たせずに倒す”勝ち方…「あえて課題をあげるとすれば?」

AI要約

井上尚弥が37歳の挑戦者TJ・ドヘニーを7回TKOで退け、2度目の防衛を果たす。

試合はアクシデントによりドヘニーが腰を痛めて棄権し、異例の結末となる。

飯田覚士は、ドヘニーの挑戦意欲と試合の展開を解説しつつ、井上の強さを称賛する。

「ドヘニーは身も心も削られていた」元世界王者・飯田覚士が分析する井上尚弥の“打たせずに倒す”勝ち方…「あえて課題をあげるとすれば?」

世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥が、37歳の挑戦者TJ・ドヘニーを7回TKOででくだし、2度目の防衛を果たした。最後はドヘニーが腰を痛めて棄権という予想外の幕切れとなったが、この一戦を元WBA世界スーパーフライ級王者の飯田覚士氏はどう見たのか。前後編にわたって徹底解説する! <全2回の後編/前編も公開中>

 来ないというなら、誘うしかない。

 4団体統一世界スーパーバンタム級王者“モンスター”井上尚弥が元IBF同級王者のTJ・ドヘニー(アイルランド)を迎えた防衛戦は5ラウンドを迎えようとしていた。

 パンチの威力も軌道もインプットしたうえでドヘニーと対峙した井上は自らコーナーを背負い、次にL字ガードにして誘い出そうとする。しかし相手はなかなか乗ってこない。

 飯田はこのときの挑戦者の感情をこう読み解く。

「チャレンジャーならもっと果敢に行くべきだと思う人はいるでしょう。ただドヘニー選手からすれば、行けばやられるってもう分かっている。行きたくても行けないっていうのが絶対にあったんじゃないか、と。それでもカウンターを狙って動きつつ左右のボディーを細かく当てようとしますが、尚弥選手の一発が鋭くて重い。次の6ラウンドになると、さらに追い詰められていくことになります」

 王者が一層、ギアを上げていく6ラウンド。ノーモーションの右が実に効果的で、ワンツーからの左ボディー、右のストレートボディーと次々にヒットさせていく。ドヘニーも対抗しようとパンチを繰り出すものの、押し返すには至らない。ラウンドの最後は、王者がコーナーに詰めてコンビネーションを見舞う。そして7ラウンド、開始早々右を浴びせて後退させ、連打のスイッチが入った場面でドヘニーが腰を押さえて続行不可能となり、レフェリーがストップした。

 アクシデントによる幕切れ。ただ、もはやドヘニーに勝ち筋はなく、ラウンドが進んでいけばKOで仕留め切ったはずだと言う。

「6ラウンドの中盤に入ってドヘニー選手が弱り出したのは間違いないこと。フェイントからのパンチも随分と当たって、身も心もだいぶ削られていたので、最後まで持たないと自分でも感じていたんじゃないでしょうか。そのラウンドの最後のほうは、もう足も止まっていましたから。(ボディーを)背中にもらって、レフェリーにもアピールしていましたよね。結局、7ラウンドの始めに棄権することになりましたけど、見ていても限界だったとは感じました」

 今回、注目されたのがドヘニーのウエイトだった。体重を大幅に戻すことで知られており、今回も当日は11kg増の66.1kg。井上とは3.4 kgの体重差となった。パワーはついても、スピードやスタミナにも影響が出ないとは言い切れない。だがドヘニーの動きを見ても、コンディションに問題はなかったというのが飯田の見立てだ。

「世界にはいろんなボクサーがいるなって思いましたね。10kgほど増やしても全然動けていましたし、そのような体質というだけ。重さのアドバンテージを活かそうとすると(スピードやスタミナの)デメリットが出てきてもおかしくはない。でもそういったことはなくて、今回はあくまでも尚弥選手に(体力を)削られたという印象です」