選手とコーチをつないだ『言葉の絆』フェンシング女子、初のメダル…報じられなかった名場面は知的でタフな通訳の涙

AI要約

パリ五輪でのフェンシング女子チームのメダル獲得とその背後にある感動的なエピソードについて

フランス人コーチと日本人通訳の深い絆が示された瞬間

涙と感動が交じり合う舞台裏のドラマに迫る

選手とコーチをつないだ『言葉の絆』フェンシング女子、初のメダル…報じられなかった名場面は知的でタフな通訳の涙

◇記者コラム「Free Talking」

 幾多の喜び、悲しみ、後悔、感謝の涙を見たパリ五輪。人生を懸けた感情の色はカラフルだった。テレビに映らず、紙面にも掲載されなかった個人的な名場面がある。日本のフェンシング女子で初のメダルを獲得した女子フルーレ団体。取材ゾーンで目撃した涙は、心に染みた。

 フランス人のフランク・ボアダンコーチが、海外勢から「(かわいい)パンダ」とやゆされた日本女子チームをどう変革したかを説明し終えた時だった。「一つだけ付け足したいことがあります」。隣の郷倉マリーン通訳をちらっと見ながら切り出した。

 「このメダルは、チームで成し遂げたことです。コーチ陣、メディカル。そして、一番感謝をしたいのは、こうやって隣にいて通訳をしてくれる彼女です。毎日、一緒にいてくれます。一緒にいてくれるためにたくさん犠牲を払ってくれています。ありがとう」

 郷倉通訳は途中から涙声になり、通訳を終えると「うぇ~ん」とボアダンコーチの胸に飛び込んだ。取材ゾーンの裏ではイタリア―米国の決勝が行われており、大歓声が響く中、声を張り上げて“名伯楽”の言葉を最後まで届けてくれた。「おめでとうございます」。記者からは感謝と祝福を込めた言葉が自然と2人に贈られた。

 父が日本人で母がフランス人の郷倉通訳は、2018年から日本フェンシング協会で働き始めた。競技経験はゼロ。1年前に就任したボアダンコーチから学び、世界15位だった日本の女子フルーレ団体とともに一歩、一歩成長していった。日本チーム全体を統括するボアダンコーチについては「包容力のある人」と教えてくれた記憶がある。

 金2つを含む5個のメダルを獲得した日本のフェンシング。涙の翌日も江村美咲らが出場した女子サーブル団体がフランスを破り、銅メダルを手にした。この日、郷倉通訳と取材後に少し立ち話をした。

 「自分の感情は入れて通訳しないというスタンスなのに泣いちゃ駄目ですよね。お見苦しいところを見せてしまい、声もかすれてしまって…」とぺこり。その後、敏腕通訳は「声の調子は1日で戻しました。もう何年もやっていますから」と白い歯を見せた。

 包容力のある“お父さん”コーチと知的でタフな“お姉さん”通訳が見せた涙の抱擁。音声を聞き直したが、年なのか…。1カ月後でもうるっときた。華やかな舞台の裏で目にした名場面だった。(一般スポーツ担当)