マラドーナの栄光と征服者スペイン、「不法占拠の地」のスタジアム【2026北中米W杯に「忘れられた」スラム街のサッカー場】(1)

AI要約

1986年のメキシコ・ワールドカップでは、12のスタジアムが使用され、アルゼンチンが優勝した。

大会のメイン会場はメキシコ市のエスタディオ・アステカで、他にもエスタディオ・オリンピコ・ウニベルシタリオなどで試合が行われた。

メキシコはアステカ民族の別名であり、歴史的に多くの文明と国家が存在していた場所である。

マラドーナの栄光と征服者スペイン、「不法占拠の地」のスタジアム【2026北中米W杯に「忘れられた」スラム街のサッカー場】(1)

 世界中、至るところにスタジアムがある。蹴球放浪家・後藤健生が渡り歩いた先には、スラム(都市部で極貧層が居住する過密化した地区)の中のスタジアムもある。2026年のワールドカップが行われるメキシコにも、そんなスタジアムがあった――。

 1986年のメキシコ・ワールドカップはディエゴ・マラドーナのための大会となり、アルゼンチンが1978年の地元開催の大会以来2度目の優勝を遂げましたが、この大会には24か国が参加。12のスタジアムが使用されました。

 開幕戦や決勝戦が行われたメイン会場は、首都メキシコ市のエスタディオ・アステカ。1970年にメキシコが初めてワールドカップを開催するにあたって建設された11万人を収容する巨大スタジアムで、1968年に日本がオリンピックで銅メダルを獲得した3位決定戦も、このスタジアムで行われました。2026年の北中米ワールドカップの会場にもなっています。

 メキシコ市ではアステカのほか、エスタディオ・オリンピコ・ウニベルシタリオも会場となりました。ここは1968年のオリンピックで開閉会式や陸上競技が行われた競技場。メキシコ国立自治大学(UNAM)所有のスタジアムです。UNAMは何人ものメキシコ大統領を輩出した超名門大学ですが、同時にプロ・サッカーチーム「クルブ・ウニベルシダード・ナシオナル」、通称「UNAMプーマス」の母体ともなっています。

 設立当初は大学生のチームでしたが、その後、プロ化してメキシコ・サッカー界の名門プロチームとなったのです。日本の大学は今ではプロ選手を多数輩出する存在となっているのですから、いっそのことプロ化してJリーグ入りを目指してもいいのではないでしょうか? メキシコや他の南米諸国にも、大学を母体としたプロチームはいくつもあります。

 さて、1986年大会ではメキシコ市に隣接する、ネサワルコヨトルという無名の町の小さなスタジアム(収容3万4500人)でも試合が行われました。

 とても不思議な街です。

 現在のメキシコと呼ばれている地域は、古代から数多くの文明と数多くの国家が栄えては滅びるという歴史をたどっていました。

 現在、メキシコ市がある場所にはかつて「テスココ湖」という大きな湖がありました。そして、14世紀にアステカ民族が一帯を征服して、1325年にテスココ湖上に首都のテノチティトランを建設。アステカは巨大な帝国に発展しました。

 しかし、その約200年後の1519年にスペイン人のエルナン・コルテスが上陸。上陸したスペイン人はわずか数百人でしたが、アステカ帝国の強圧的な支配に反感を持つ周辺の民族と同盟を結んで、瞬く間にアステカ帝国を征服してしまいました。そして、テノチティトランの廃墟の上にメキシコ市を建設したのです。

「メキシコ」(現地語でメヒコ)は、アステカ民族の別名です。