趣味の習字は予選アタックと共通点多し。固い決意でF1を目指す16歳【ネクスト・スター特別編/加藤大翔】

AI要約

加藤大翔がモータースポーツへの情熱から幼少期のカートレースへの参加、HRSフォーミュラクラスでのトレーニング、フランスF4への参戦までの成長過程を明らかにした。

HIROTEX RACINGに所属し、レーシングキャリアを支える安田裕信からのサポートに感謝し、彼の存在が自身の成功に大きな影響をもたらしたことを語った。

フランスF4での挑戦やドライビング技術の磨き方、現地での生活での困難な点、そして将来に向けた野望について率直に語った。

趣味の習字は予選アタックと共通点多し。固い決意でF1を目指す16歳【ネクスト・スター特別編/加藤大翔】

 未来のトップドライバー候補として、これから日本のモータースポーツ界を担う若手ドライバーにスポットを当てる『ネクスト・スター』。今回は特別編として、2023年のホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)フォーミュラクラスで首席スカラシップを獲得し、2024年はフランスF4に参戦している加藤大翔にインタビューを実施。幼少期のカートとの出会いからフランスF4参戦、現地での暮らしなどを聞いた。

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──まず、加藤選手がモータースポーツを始めたきっかけを教えて下さい

加藤大翔(以下、加藤):父親がモータースポーツの大ファンで毎日中継を見ていました。僕が物心つく前からずっと観てたくらい一緒にF1を観ていたなかで、自分も『レーサーになりたい』と思っていました。

 モータースポーツはお金が必要なスポーツだと分かっていたのですけど、まずはレンタルカートから始めました。5、6歳のときに(カートを)始めないといけないと思っていたのですけど、兄が最初に始めて、その隣でキッズカートがあったので、それを見つけて父親に『自分も走るんだ』と主張しました。そして、その日に走行会に参加して、カートに初めて乗りました。

──お父様はF1を中心に見ていたのですか?

加藤:そうです。当時からアイルトン・セナが好きでずっと観ていて、父親自身も(レーサーに)なりたいと思っていたようなのですが、資金面的にも(レーシングドライバーに)なることができなかったと言っていました。

──カートの中で一番覚えている記憶や、今のキャリアにとって大切だったことはありましたか?

加藤:デビューレースですね。ローカルレースでカートを始めて、そのときはまだ6歳でした。カートを初めて3ヵ月もしないくらいで、練習も3回くらいしか乗っていない状態で、(カートで)通じた友人の親御さんに「お遊びみたいなものだからレースに出てみなよ」と誘われて、訳もわからない状態でレースに出て、運も良く優勝してしまったんです。その優勝で『僕の人生はレースで生きていくんだ』と決め、そこから僕のレース人生がスタートしました。

──デビューレースは何番手からスタートしたのでしょうか

加藤:2番手スタートでした。最初から負ける気は全然なかったので、フライングするくらいの勢いでスタートして、訳もわからない状態で優勝してしまいました。そこで優勝できていなかったら、自分はこの場にいないと思います。

──加藤選手は安田裕信選手が手掛ける『HIROTEX RACING』に所属されていましたね。その経緯を教えて下さい。

加藤:2022年シーズンにシートがなく、何に乗るか決まっていなかったとき、安田さんからお声をかけていただき、機会を作っていただきました。自分はHIROTEX RACINGで急激に成長することができましたし、2019~2022年に通っていたHRS(ホンダレーシングスクール)カートクラスの経験も活かし、2022年のEXGEL OK CHAMP SERIESで活躍することができました。

 また、当時はタイヤメーカーが3社あり、僕はヨコハマタイヤさんでタイヤ開発も経験させていただきました。そこでタイヤの使い方も学び、ドライビングの仕方もまるっきり変えました。その年は良かった思い出しかないですね。もちろん苦労もありましたけど、それ以上でした。

──カートの最高峰クラスになるとお金がかかるので、安田選手の声がけがなかったらレースを続けられなかったと言うHIROTEX RACING出身ドライバーもいます。加藤選手はどのような境遇でしたか?

加藤:僕もまったく裕福ではない家庭だったので、莫大なお金が掛かるOKクラスに乗ることは考えていませんでした。当時はまだスペシャルタイヤがあったので、そこまでのお金を出す余裕はありませんでした。

 2021年はプライベートでフォーミュラの練習を行い、その次の年にHRSフォーミュラクラスを受講するプランにしていましたが、安田さんからオファーをいただき、開幕戦からポールポジションを獲得する活躍ができて良かったです。安田さんに拾ってもらっていなかったら自分はここにいません。

──そこから、ホンダレーシングスクール(HRS)フォーミュラクラスへ入校する経緯やきっかけを教えて下さい。

加藤:小学4~5年生にカートでレースをしていたとき、父親と『日本人がF1ドライバーになるならホンダしかない』と話して決めました。

 小学生のときから、2023年にHRSフォーミュラクラスに入校する、もしそれがダメだったらレース人生を辞めると決めていました。そこでグダグダしていても資金が続きませんし、絶対に入校して『次席でもダメ』だと、首席で卒業すると決断しました。そのために2019年にHRSのカートクラスに入って経験を積み、2023年にフォーミュラクラスに入校しました。

──入校したHRSフォーミュラクラスではどんなことを学びましたか?

加藤:ドライビングはもちろん、コミュニケーションの取り方などを学びました。HRSはスクールという名前ではありますけど、教えてもらう立場ではなく、生徒がアドバイスをもらいに行く立場であることが大きな違いです。今はフランスF4で戦っていますが、HRSで習った経験はすごく活きています。

 もちろんコミュニケーション能力も必要で、講師を走りで魅了させるために、自分の走行が終わったら絶対に教えてくれるような関係にすることが大事だったので、すごく学びになりました。朝の挨拶や素行、敬語など、ドライビング以外に必要な何もかもを学びました。

──カートとフォーミュラカーの違いの部分で戸惑うことはありましたか?

加藤:すぐに慣れることができました。初めてフォーミュラに乗ったのは2022年にスクールに向けての準備として走行したF4車両なのですけど、最初に驚いたのがブレーキでした。カートのブレーキは普通に踏むことができますが、フォーミュラカーのブレーキは石を押してるようで、初めてフォーミュラに乗ったときに踏力が必要で背筋がとても痛くなったことを鮮明に覚えています。

──過去にはフォーミュラリージョナル車両にも乗られていますが、速いマシンに乗るときはどんな気持ちですか?

加藤:とても楽しいです。速い車両に乗ると挑戦のし甲斐もあります。挑戦することが大好きなので、ダウンフォースが大きくなってくると速いコーナーをどれだけ速く走れるかという部分で、めちゃくちゃ楽しいです。

■習字と予選アタックの共通点は集中力。フランス生活で思わぬ苦労も

──ホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)で首席スカラシップを獲得し、2024年からフランスF4に参戦することになりました。フランスF4はエンジニアの担当が日本のレースとは異なるようですね。

加藤:フランスF4では、ひとりのエンジニアが3~4人のドライバーを担当していて、ドライバーひとりあたりのミーティング時間も決まっています。(ミーティングの時間は)およそ30分ですが、全員のミーティングが終わるとエンジニアが空くので、僕はいちばんに『もう一回話したい』と行きます。

──カートでもヨーロッパに行かれていましたね。

加藤:一度HRSカートクラスのときにフランスへ行きました。そのときの結果は2位で、FFSAアカデミー代表のクリストフ(・ロリエー)さんに『2年後絶対にフォーミュラで行くから待ってて』と言いました。今年フランスF4参戦でひさびさにクリストフさんに会うことができて嬉しかったですし、あちらも歓迎してくれました。

──では、今年のフランスF4のここまでの大会を振り返るといかがでしょうか?

加藤:開幕戦は前日練習まで苦戦はしていませんでしたが、予選当日に新品タイヤを履いたとき、ウォームアップの手順がよくなくて(タイヤを)壊してしまいました。いい学びでしたが、自分の準備不足にちょっとショックを受けました。

 開幕戦では絶対にポールポジションを獲得すると決めていて、日本にいるときから準備をしたので自信はありましたが、自分のミスでポールポジションを逃したので余計に悔しかったです。レースでは、ウォームアップをしっかりとして結果的には2位と3位を獲れたことは、よかったかなと思います。

──タイヤに熱入れるのが早すぎたのでしょうか?

加藤:はい。グレイニングができてしまいました。しっかりとタイヤの中から温めないといけないことは分かっていたつもりですが『これくらいで行けるだろう』みたいな感じで甘かったです。その後エンジニアと反省会をしましたし、どうしたいということもすぐに伝えることができるので、エンジニアとのコミュニケーションはバッチリだと思っています。

──佐藤琢磨さん、中野信治さんが現地にいらした際にはどんな話をしましたか?

加藤:中野さんは第2大会に来ていただき、(セッティングなどは)エンジニアと決めた方がいいから、コミュニケーションをとることが重要だという話をしました。また、マシンのフィーリングを相談して、どう進めばいいかアドバイスしてもらったり、『このコーナーが苦手なので見てもらえませんか』と言ってアドバイスをもらいました。

 琢磨さんはスパ(第3大会スパ・フランコルシャン)とニュル(第4大会ニュルブルクリンク)に来ていただきました。熱い人なので各コーナーに行っていただき、『このコーナーが苦手なので見ていただけないですか?』と言ったら『分かった。行ってくる』というやり取りをしました。

 スパではフリー走行が30分1回しかなく、その後に予選で時間がありませんでした。琢磨さんには最終シケインで見ていただきましたが、無線が使えないので、マシンから降りた後にアドバイスをもらいました。

──お話を聞いていると楽しそうですが、フランス生活で苦労している部分はありますか?

加藤:真面目な話、円安です。レストランに入ってしまうと、『この料理で15ユーロ(約2400円)もするのか』と思ってしまいます。親が一生懸命働いてくれていて、料理に15ユーロも掛けるなら自炊しています。野菜などは安いのですが、レストランが高くて飲み物が1本600~700円などの値段になっています。水も2リットルのボトルを何本も買い、路面電車に乗りながら重いボトルを抱えて運んでいます(苦笑)。

──加藤選手はSNS(@Taito_Kato89)をこまめに更新しているイメージがあります。その目的は何なのでしょうか?

加藤:僕はもっと日常にモータースポーツを取り入れたいんです。現代だったらeスポーツやレンタルカートもあるので、絶対に体験してもらいたいです。ということを踏まえ、自分の感動をみんなに体験してもらいたいこともありSNSを更新しています。もちろん自分の結果を知ってもらいたい、名前を売りたいという目的もありますが、もっとレースを日常的に知ってもらいたいです。

──なるほど。ふだんeスポーツやシミュレータはプレイしますか?

加藤:やりまくっています。フランスのアパートにシミュレータを設置し、レース前には考えられないくらいプレイしています。フランスF4だとスパは30分しか練習走行ができないので、いつもの景色だと思うくらいには準備しています。

──趣味に習字を挙げられていますが、フランスでも続けているのでしょうか?

加藤:師範を持っていて、(フランスには)筆も硯も持っていきました。今でもレース前にたまに書いていて、エンジニアに僕が書いた習字を見せたら「ビューティフル!」と言っていました。習字は日本の文化ですが、僕は予選アタックと一緒だと思っています。

──ほう。習字と予選アタックの共通点はどのようなところでしょうか?

加藤:僕は清書は2枚しか書きませんし、予選もワンアタックかツーアタックです。それ以上になるとタイヤが持ちませんし、習字も2枚で集中力が持たなくなります。それは予選アタックと一緒です。

 予選は集中して行きすぎたらコースアウト、手前過ぎてもタイムが落ちてしまいます。習字も早く書いても線がぶれてしまいますし、遅く書き過ぎてもガタガタになってしまってバランスも悪くなってしまいます。4文字であれば、最初の一画から最後の一画までまとめないといけないことは、レースでも1コーナーから始まり、最終ラップの最後コーナーもしっかりとまとめないといけません。その部分がしっかりとしていないとバランスが良くなりません。

 その共通点に気がついたのが、小学校から中学校に上がるくらいで、そのときから習字が大好きでした。最初は書くことが好きでしたが、何かレースに活かせないかなと日常から思っていて、習字がいいなと思いました。

──加藤選手は現在16歳ということですが、英語とフランス語はどのように習得しているのでしょうか?

加藤:英語は、もう(海外に)行くと決めていたので、小学6年のころから英会話を習い、中学3年のときに留学して準備をしていたので、英語はパーフェクトではないですけど、話せます。

 フランス語はまったくわからないです。ボンジュールとジュマペールくらいしか分からないですけど、ジェスチャーでなんとかしています。エンジニアはフランス人ですが英語を話すことができるので、「How did you say?」のように聞き、フランス語で返ってきた言葉を復唱して繰り返し練習しています。

──では、今季のフランスF4、加藤選手は後半戦でどのような活躍をしたいですか?

加藤:もちろんチャンピオンです。今はランキング3位ですが、この後は連続優勝を飾り、チャンピオンシップで圧倒したいです。予選どおりのスターティンググリッドで争うレース1、レース3で勝つことはもちろん、トップ10がリバースグリッドになるレース2でも圧倒的に追い上げたいです。前半4大会で経験できたことを活かし、残りの3大会はぶっちぎりたいと思います。

──フランスF4から“先のビジョン”はいかがでしょうか?

加藤:どのカテゴリーを走るかは決まっていませんが、どのレースに参戦してもフランスでの経験が活かせると思います。新しいチームに加入しても、初日から『ランチに行こうよ』と言えるくらいの関係性を作りたいですし、そのために今準備しています。ドライビング面ももちろん、マシンが異なるなら新しいエンジニアとしっかりと相談していきたいですね。

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 国内フォーミュラを経ず、フランスF4で四輪デビューとなった加藤だが、ホームシックな印象はまったく感じさせず現地での暮らしを楽しんでいる印象だ。資金面などの現実を見る冷静さに加え、趣味の習字もレースに結びつける貪欲さに、取材中は加藤が16歳の高校生であることを忘れるほどだった。ただチャンピオンを獲るのではなく、誰よりも抜きん出て王者を獲るという決意を見せた加藤。今後に注目しておいて損はないはずだ。

■プロフィール 加藤大翔(かとう・たいと)

2007年11月25日三重県出身。2021年に全日本カート選手権FS-125クラスにステップアップしランキング2位になると、2022年にはEXGEL OK CHAMPのチャンピオンに輝く。2023年にHRSフォーミュラクラスで首席を獲得しスカラシップを獲得。2024年はフランスF4に参戦し四輪デビュー、第4戦を終えてランキング3位につけている。

[オートスポーツweb 2024年08月22日]