男子100m「史上最激戦」決着のウラで…準決勝敗退でもサニブラウンが見せた“成長の跡”「スタートの音が聞こえなかった」から5年での進化

AI要約

パリ五輪の陸上競技・男子100mは、史上稀に見るハイレベルなレースになり、サニブラウン・アブデルハキームは惜しくも決勝進出を逃し、世界トップとの距離を感じることとなった。

サニブラウンは五輪史上初めて、9秒台で決勝進出を逃した。彼は金メダルを目指しており、自己記録更新や日本記録にも満足することなく、常に世界との差を縮める努力を続けている。

サニブラウンは五輪初出場ながら、過去の世界大会で入賞経験も持ち、常に上位を狙っている。しかし、力を使い切った準決勝後の決勝ではタイムを落とし、メンタルや体がリセットできない状態で挑むこととなった。

男子100m「史上最激戦」決着のウラで…準決勝敗退でもサニブラウンが見せた“成長の跡”「スタートの音が聞こえなかった」から5年での進化

 パリ五輪の陸上競技・男子100mは、史上稀に見るハイレベルなレースになった。

 その準決勝。サニブラウン・アブデルハキーム(東レ)は、9秒96の自己ベストをマークした。しかし、決勝に進めるのは全3組の各組2着までと、3着以下のタイム上位者2名。4着に終わったサニブラウンは惜しくも決勝を逃した。

「アップも調子よくて、全部出し切る勢いでスタートしたんですけど、うまく最後まとまりきれなかったのが、ちょっと失速したきっかけになった。(終盤に)伸びてくる選手は伸びてくるので、力まずしっかり自分のレースをすれば、食らいついていけると言われていたんですけど、ちょっとオーバーストライド気味になってしまった部分があったのかなと思います」

 フィニッシュ直前に着順を気にしてしまったのもあっただろう。自己記録、そして日本歴代2位の好記録でも、サニブラウンにとって会心のレースではなかった。

 準決勝ではサニブラウンを含む12人が9秒台をマークしたが、9秒台でも決勝に駒を進められなかったのは五輪史上初めてのことだった。決勝進出ラインは9秒93。サニブラウンはわずか100分の3秒届かなかった。

 フィニッシュ後、「世界のトップとの距離は縮まっているのか」と問われたサニブラウンは、「そうですね。う~ん」とまず一拍を置き、言葉を続けた。

「縮まっているのは縮まっているんですけど、世界の皆さんもどんどん先に行っているんで。本当にちょっとずつ追いつくだけでは足りないなということを、身に染みて感じました」

 決勝進出に足りなかった100分の3秒、そして金メダルまでの距離を冷静に受け止めていた。

 サニブラウンが決勝に進出していれば、この種目における日本人にとっては92年ぶりの快挙だった。近年の世界大会の実績からみても、サニブラウンには十分可能だっただろう。

 しかし、サニブラウンが目指していたのは金メダル。仮に決勝に進んでいたとしても、おそらくそれだけで満足することはなかったに違いない。

 サニブラウンが100mで五輪に出場するのは、意外にも今回が初めてだった。とはいえ、世界選手権ではファイナリストの常連になりつつある。22年のオレゴン大会で7位、昨年のブダペスト大会で6位と、2大会連続で入賞している。

 オレゴン世界選手権は、予選でいきなり9秒台(9秒98)をマークし、組1着で準決勝に駒を進めた。準決勝でも10秒05と踏ん張り、組3着だったもののタイムで拾われて決勝進出を決めた。

 しかし、快進撃はここまでだった。

「ちょっと準決勝で(力を)使い切った感じがあった。体の動きはよかったんですけど、やっぱり最後のつめが甘かったですね。準決勝のときよりも緊張はしていなくて、わりと冷静だったのですが……」

 決勝は10秒06で7位。

 世界の上位勢がラウンドを重ねるごとに記録を伸ばしていくのに対して、サニブラウンは予選、準決勝、決勝と進むにつれ、タイムを落とした。「満身創痍の状態で、メンタルも、体もうまくリセットできない状態で決勝に挑んだ」と後に振り返ったように、この時のサニブラウンには決勝で戦う力が残っていなかった。