今年だけで「日本王者が3人」「パリ五輪代表も」…スポ薦なし“偏差値70の進学校”陸上部がトップ選手を続々輩出のナゼ…成功の源は「急がない指導」

AI要約

桐朋高校から注目の陸上競技選手が続々と誕生している異変が起きている。

指導者の外堀先生は選手たちに将来に向けた準備を重視し、オールラウンダーの育成に力を入れている。

高橋諒や吉澤登吾など、桐朋生の成績が目覚ましい成長を遂げている。これからも期待が高まる。

今年だけで「日本王者が3人」「パリ五輪代表も」…スポ薦なし“偏差値70の進学校”陸上部がトップ選手を続々輩出のナゼ…成功の源は「急がない指導」

 パリ・オリンピック陸上競技の400mハードルに出場する豊田兼。

 彼が卒業した東京・国立にある桐朋高校からは、2024年の大学入試で現役・浪人合わせて12名が東京大学に進学した。東京・多摩地区の住民にとって、桐朋といえばスポーツの学校ではなく、進学重視の学校である。

 実は、私は桐朋高の学校説明会に出席したことがあり、これが素晴らしい内容で、感激したほどだ。当時の片岡哲郎校長は四季折々の桐朋の写真を見せ、「こういう環境で3年間を過ごせたら、本当にいいだろうなあ」と実感させてくれた。桐朋は中学までは制服があるが、高校は私服登校。国立の町を歩いていると、こざっぱりした桐朋生はだいたい分かる。

 その桐朋に「異変」が起きている。陸上競技で! 

 豊田というオリンピアンが誕生しただけでなく、U20日本選手権の十種競技では、桐朋を卒業したての慶応大学1年生・高橋諒が優勝。8月27日からペルーで行われるU20世界選手権の代表に選出された。

 さらには高校3年生の吉澤登吾が同じくU20日本選手権の800mで、日本高校歴代4位となる1分47秒80で優勝、こちらもU20世界選手権の代表に選ばれている。

 いったい、桐朋になにが起きているのか? 

 自らも走り高跳びで日本選手権2位の実績を持つ陸上部の顧問・外堀宏幸先生はこう話す。

「競技実績による推薦はありませんし、本当に豊田、高橋、吉澤と、偶然にも能力の高い生徒がいたというだけです。来年、吉澤が卒業したら、もう一度、私自身も指導を見直していくつもりです」

 前編では豊田の成長過程をたどったが、外堀先生の指導方針は高校3年間での短期的な成功を求めるものではなく、将来的に大きく花開くための準備をするというものだ。

「中学時代の豊田は混成競技(※中学生は400m・110mH・走高跳・砲丸投の四種競技)に取り組んでいました。高橋も中学時代から抜群の能力を持っていたので、将来につながる土台を大きくする意味で混成競技を勧めました」

 土台を大きくすれば、将来、より高いところへ到達できるかもしれない。その思いが日常の指導に表れている。

 高橋は高校1年生でインターハイの八種競技を制し、昨年11月には高校記録を塗り替えた。混成競技は一般的になじみが薄いが、高校生の八種競技の場合、次のようなプログラムで進んでいく。

1日目:100m 走幅跳 砲丸投(6kg) 400m

2日目:110mH やり投 走高跳 1500m

 外堀先生は高橋の特性をこう話す。

「中学1年の時から運動能力が高いのは分かりました。印象的だったのは、中1でまったく練習したことがないのに、ハードル間を3歩で跳んでいったことです。足が速く、一定の器用さがある。もし専門性を追求するならば、高橋は短距離種目の可能性も十分あったと思います。。

 ところがそれだけではなく、跳躍、投てきも行ける。混成の選手は投てきが得意だと短距離が苦手だったり、どこかに偏りが生まれてしまうものですが、高橋の場合、あえて挙げるとするなら1500mがやや苦手というくらいで、正真正銘のオールラウンダーです」

 6月に岐阜県で行われた十種競技のU20日本選手権で高橋は、次のような結果を残した。

1位種目 100m 走幅跳 走高跳 110mH 円盤投 やり投

2位種目 砲丸投 棒高跳 1500m

3位種目 400m

 実に6種目で1位となっている。外堀先生も高橋の成長を素直に喜ぶ。

「大学に入ってから、棒高跳と円盤投に取り組まなければいけないので、その2種目が課題かなと思っていましたが、うまく適応しているようです。実は去年の秋から、高橋には好きに練習させていました。ひと冬くらい、自由にさせてもいいかと思いまして(笑)。大学に進んだら私が指導するわけではないですし、自分なりに考えて練習を組み立てた方が大学での競技生活につながると思っていましたので」