ポルシェが2度のル・マン王者をドライバーコーチとして招聘「若手が運転に集中できるようサポート」

AI要約

ティモ・ベルンハルトはポルシェのブランドアンバサダーとして活躍しつつ、WEC世界耐久選手権でのドライバーサポートも行っている。

役割としては、ドライバーやチームとのマネジメントを通じてチームを円滑に動かすことや、特に若手ドライバーに対してサポートを行っている。

ハイパーカークラスの成長や現役復帰の可能性についても語っている。

ポルシェが2度のル・マン王者をドライバーコーチとして招聘「若手が運転に集中できるようサポート」

 かつてポルシェのワークスドライバーとして活躍し、2度のル・マン24時間レース総合優勝を勝ち取ったティモ・ベルンハルト。現役を引退した後は、ポルシェのブランドアンバサダーとしてポルシェやモータースポーツの魅力を伝えるべく世界中のイベントを飛び回る他、ドイツのポルシェ・カレラカップ等で活躍する自身が経営するレーシングチーム『チーム75・ベルンハルト』の運営担うなど、多忙な日々を送っている。

 そのティモ・ベルンハルトが今季からWEC世界耐久選手権でドライバーサポートの任務も行っているとのことで、その役割についてル・マン24時間レースが開催されたサルト・サーキットで話を聞いた。

■若手と「心を開いて話せる信頼関係」を構築

──ポルシェのブランドアンバサダーとしての役割の他に、新たな役割があると聞きました。

ティモ・ベルンハルト:特にル・マンでは世界中からゲストとプレス関係者が大勢訪れるので、ブランドアンバサダーとエキスパートとしての立場の役割がある。一方で、ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツのプログラムの一環で、ドライバー・ディベルティメント・エキスパート・コーチという立場でWECとル・マンに携わっている。

──具体的にはどんなことをしているのですか?

TB:エンジニアとドライバー、チームとドライバー、ワークスとドライバー等の間に入ってマネジメントをすることで、よりチームを円滑に動かす役割を担っている。ドライバーとしての長い経験から、チームの力になれると嬉しい。

──ル・マンで総合優勝を果たした一方で、苦い思い出もあるあなただからこそ、言葉では表現しにくいような彼らの心の葛藤などを理解できるのではないでしょうか?

TB:ポルシェのハイパーカーのラインアップはとても良いと思っている。しかし、ワークス車の3台/9名のドライバーにはさまざまなバックグラウンドがあり、個性も異なるがゆえ、彼らとチームをまとめるマネジメント的な役割を果たしているんだ。

 一方で、ポルシェはいま若いドライバーにハイパーカーをドライブするチャンスを与えているところだが、特にジュニアプログラムからステップアップしてきたドライバーたちが初めて経験するこのようなビッグステージでは、チームの規模や内部組織も彼らがいままで経験してきたものとは比較にならないだけに、若手ドライバーがなるべくドライブに集中できるようにサポートしている。

 ベテランのドライバーにとっては、ある程度自分の過去の経験から自身をマネジメントできるが、若手にかかるプレッシャーと重圧は大変だ。私も通ってきた道であるだけに彼らの心情はよく理解できる。彼らとは信頼関係がとても大切で、心を開いて話せる信頼関係を築いた上で、サポートをすることを心掛けているし、いまのポルシェの中で彼らのためにそれができるのは、私が最適ではないかと思っている。

──あなたはポルシェ936の開発時期にテストで走行していますか?

TB:残念ながら開発時期には乗っていなかったけれど、この1月にロールアウトをした際に2台をドライブした。私にとって963は非常に興味深いものだった。メカニズムももちろんのこと、ドライブフィーリングやそれをドライブする際のドライバーの立場としての感覚をつかむにも非常に良い機会だったし、ドライバーたちをサポートする上で、自分でもマシンのメカニズムや動きを承知しているので、いまの仕事にも役立っているよ。

──あなたがかつてドライブしていたLMP1との違いは大きいかと思いますが、特に気に留めたことはありますか?

TB:レギュレーションがまったく違うこともあり、マシンもまったく別物だと言ってもいい。LMP1から比べると車重は随分と重くなり、全輪駆動ではなく(LMDhは)後輪駆動となった。ハイブリッドシステムが大きくなった分、エンジンは小さくなった。車幅も広くなったし、エアロダイナミクスも別物だ。

 LMP1時代は各メーカーが独自開発できる範囲は広かったが、いまはそれらが非常に限られているものの、プロトタイプがWECやル・マンのトップクラスで残ってくれたことを嬉しく思う。さまざまな背景や状況を踏まえると、今のハイパーカーのレギュレーションは理にかなっているし、今後このクラスが生き残るための選択肢としては正解だったと思う。

■LMP1時代とは異なる“盛り上がり”

──昨年に一気に花咲き、今季は更にフィールドが大きく広がったハイパーカークラスをあなたはどう見ていますか?

TB:プロトタイプのエンデュランスレースは厳しい時代を迎えたこともあり、今年のように数多くのマニュファクチャーとトップドライバーがそろうフィールドは非常に理想的であり、素晴らしい時がやって来たと思う。ハイパーカーのレギュレーションには詳細にコストキャップも設けられており、LMP1時代のように天井知らずに開発費を投入できなくなった。更なるメーカーやプライベーターも新規参入し、コンペティションが盛り上がることは、私たちメーカー側にとっても良い効果だし、ファンにとっても見どころが満載でワクワクするのではないかと思う。

 コンスタントにこの状態が続くように、参加者同士の横のつながりも強化してみんなで盛り上げていく必要があると感じている。過去にはスポーツカー(プロトタイプ)のクラスでは栄光と衰退のいくつもの波があったが、いまの状況を見ているとハイパーカーは輝かしい時代が続くのではないかと思う。

──かつてジャッキー・イクスさんは、勝つために必要なことは『エゴ』だとおっしゃっていました。もちろん、時代やマシンやレギュレーションは当時とは随分と違いますが、ご自身もル・マン総合優勝経験者であり、ドライバーコーチであるあなたの立場で、いまの時代にル・マンで勝つために最も必要なことは何でしょう?

TB:彼の気持ちはよく理解できる。エゴももちろん必要だけど、いまの時代でいえば、第一に大切なのはミスのない仕事。ドライバー交代、タイヤ交換……数多く仕事がある中でそれは非常に難しい。ペナルティにも誰もが充分気をつけているが、避けられない時もある。それだけに、チーム全員で限りなく完璧に近い状態を常に目指していなければならない。

 さまざまな天候、トラフィック、突発事項を限りなく多く予想して準備をしているが、それでも想定外のことは実際のレースでは多々起こる。それが現実であり、その厳しいコンディションの中でもドライバーは限りなくリミットに近い極限状態で走り続けなければならない。それでも勝てる見込みは決して100%にはならない。私の経験上で、ル・マンで総合優勝することは他のどのレースよりも難しいと感じている。

──ドライバーやチーム関係者と常時近くで接し、また963をドライブしたということで、もう一度現役に復帰してル・マンに挑戦したいという気分になったりしませんか?

TB:それにはちょっと歳(※現在43歳)を取り過ぎたんじゃないかな(笑)。でも、私の息子たちがもしもレーシングドライバーになったとしたら、彼らと組んでみたい気もする。その頃は私も50を過ぎている……やはり現役復帰は難しいよ(笑)。

 ところで、今年は9月に開催されるWEC富士にも、ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツに帯同することが決定して、いまからとても楽しみにしている。久々の富士となるけど、現役の時に応援してくれたファンのみなさんが私のことを覚えてくれていたら、また会えることを嬉しく思うよ。

[オートスポーツweb 2024年07月24日]