男子校の応援を華やかに…願いこもったバービー人形 藤嶺藤沢の“紅一点”を追いかけた先に見えた親心

AI要約

「THE ANSWER」が神奈川大会の高校野球応援スタンドで見つけた藤嶺藤沢のバービー人形。男子校の応援席を明るく彩る彼女は、投手の母親が作り上げた存在であり、チームを支える大きな存在となっている。

バービー人形を身近に感じる彼女の裏には、投手の母親の強い親心と支えがあった。母は疾病を克服し、息子を力強く応援している姿が印象的である。

男子校に華を添えるバービー人形と、母の愛情とサポートが交錯する姿。親子の絆や応援の意味が巧みに描かれた一場面である。

男子校の応援を華やかに…願いこもったバービー人形 藤嶺藤沢の“紅一点”を追いかけた先に見えた親心

 第106回全国高校野球選手権の神奈川大会は14日に3回戦を終えた。「THE ANSWER」では、168チームが参加するこの大会にカメラマンが密着し、フォトコラムを連日掲載していく。第5回で取り上げるのは、藤嶺藤沢の紅一点。男子校の応援スタンドに立つ“バービー人形”だ。ストーリーを追ってみると、温かいまなざしで部と選手を見守ってきた母の思いにたどりついた。(写真・文=THE ANSWER編集部・中戸川 知世)

 雨の俣野公園横浜薬大スタジアム。スタンドの最前にたたずむ“女の子”がいた。紫に染まった一塁側、藤嶺藤沢の応援スタンドで、チアガールのユニホームを着たバービー人形が野球部員を従え、フェンスに寄りかかっていた。

 誰が? 何のために? ドラムや応援ボードが雑然と置かれた応援席の中で、金髪と銀色に光るピアスが目立つ。しかも藤嶺藤沢は男子校だ。この子はどこから来て、なぜここにいるのか。その経緯が気になった。

 応援していた野球部のメンバーに聞くと、この日先発した宮澤瑛二郎投手(3年)の母・美紀さんが購入したものだという。3回の途中で雨が強くなり、2時間近く試合が中断。スタンドで美紀さんを見つけると、さしていた傘に私を入れてくれた。

「うちは男子校でチアがいないから…」

 実は、長い歴史があった。宮澤の兄・隆太郎さんも同校の野球部出身。6年前、当時は青だったユニホームに合わせ、青い服を手作りしバービー人形に着せた。そして宮澤が兄に続き入学したタイミングで、現在の白と紫を基調としたコスチュームに作り変えた。スタンドが少しでも華やかになれば、そんな思いで託した人形はいまや部の一員。美紀さんは「落ちたら拾ってくれるし、面倒見てもらっています」と明るく笑う。

 そんな明るい美紀さんも、宮澤のことになると声のトーンが一気に変わった。「ここに立てていることが奇跡で、ありがたい。チームのために頑張ってほしい」。実は、4月に腰椎分離症と診断され「もう野球はできないかもしれない」という絶望を味わったのだという。そこから周囲のサポートもあり、2か月ほどでマウンドに戻ってきた。

 この日の投球は見事だった。横浜翠陵相手に6回87球を投げ、2安打1失点。チーム2年ぶりの4回戦進出を決める原動力となった。試合後の宮澤を探すと「お父さんとお母さんを喜ばせたい」と、近くで支えてくれた両親への恩返しを短く、強い言葉にしてくれた。さらに美紀さんについて聞くと、少し照れた様子で「僕も明るい方なので母似ですかね」と笑みをこぼす。母譲りの明るさと強い気持ちで、最後の夏をまだ駆ける。

 男子校になぜバービー? そんな単純な疑問から追いかけたストーリーは、息子を思う親心へとつながった。高校野球に深い思いを込めているのは、グラウンドの選手たちだけではない。スタンドや支え続けてきた親の願いも、夏の一投一打を輝かせる。