【緒方耕一】「機動力を使って勝つ」リスクを背負った新井監督の野球が広島の強さの秘訣

AI要約

広島が阪神に逆転勝ちし、3連敗中だった首位を守った。

広島は機動力野球を展開し、阪神の先発・村上を攻略した。

新井監督のリスクを冒して機動力を活かし、広島の強さを示した試合だった。

<広島7-5阪神>◇4日◇マツダスタジアム

 3連敗中の首位・広島が、持ち前の機動力野球を実践し阪神に逆転勝ちした。2位阪神に2ゲーム差まで詰め寄られた試合で、阪神の先発は昨年のMVP右腕の村上だった。苦しい試合が予想されたが、混戦のセ・リーグで首位にいる広島の強さの神髄を発揮した。

 村上の攻略は、試合前から決めていたのだろう。初回無死一塁、4回無死一塁、5回1死一塁だった。走者が一塁に出ると、積極的に初球から仕掛けた。最初はエンドランを空振りしたが、二盗を決めて捕手の梅野が悪送球。一気に三塁まで進んだ。次はレフト前ヒットで一塁走者は二塁ストップも、エンドランは成功だった。最後はエンドランかランエンドヒットか分からなかったが、ファウルで村上にプレッシャーをかけた。いずれも一、三塁という最高の形は作れなかったが、機動力で揺さぶり、得点に結び付けた。

 村上は抜群の制球力を武器に、クセ球の真っスラでゴロで打ち取るタイプ。比較的、エンドランはかけやすいタイプではあるが、クイックモーションのタイムは1秒13前後で速く、空振りすれば一塁走者は二塁でアウトになる可能性が高い。しかし、低めの変化球は捕手も二塁へ送球しにくいし、思い切って空振りすれば、さらに送球がしにくくなる。エンドランを仕掛けるにはベンチも勇気がいるが、そういう狙いもあったのだと思う。最初のエンドランは狙いが的中して梅野の悪送球を誘った。

 次のエンドランも2点をリードされた場面だった。リードしている展開であれば機動力を仕掛けやすいが、ビハインドだと機動力は使いにくくなる。それでも積極的に初球でエンドランを仕掛けられたのは「この試合は機動力を使って勝つ」という、新井監督の固い決意があったからだと思う。

 ベンチが腹をくくれば、選手も思い切ったプレーができる。8回裏も小園がヒットで出塁すると、迷わず羽月を代走に送った。阪神の島本はそれほどクイックがうまくないし、羽月の走力であればギリギリ走れるという計算もあったのだろう。羽月は島本のときに盗塁を決め、リリーフした石井の初球には三盗まで決めた。そして最後は暴投で勝ち越しのホームを決めた。

 セ・リーグは混戦で、まだ首位を意識する必要はない。しかし、2位に浮上した阪神に3連敗すれば、嫌な負けになるのは必至だった。機動力野球とは武器にもなるが、実践するのは意外と難しく、失敗したときのリスクも高い。追い詰められた試合なら、なおさらプレッシャーもかかる。すべてのリスクを背負った新井監督の野球が、機動力を使った広島の強さの秘訣(ひけつ)なのだろう。(日刊スポーツ評論家)