「私は絶対に『ミス』という言葉を使いません」サガン鳥栖でイタリア人指導者が教える「GKのテクニック」の基本とは?

AI要約

イタリアで指導経験豊富なバッレージ・ジルベルト氏が、GKのテクニックとポジショニングの重要性について説く。

ジルベルト氏は、GKに対する基本的なテクニックやポジショニングの重要性を強調し、実践に即した指導を行っている。

指導法を通じて、選手たちに「ミス」という言葉を使わず、自らのプレーを客観的に見つめ直す習慣を身につけさせている。

「私は絶対に『ミス』という言葉を使いません」サガン鳥栖でイタリア人指導者が教える「GKのテクニック」の基本とは?

 イタリアで豊富な指導経験を持つバッレージ・ジルベルト氏は、GKのテクニックとポジショニングの大切さを説く。インタビュー第2回では、サガン鳥栖のGKダイレクターを務める“ジルさん”に、イタリア仕込みのGK哲学を深く訊いていく。(取材・文:佐藤徳和)

プロフィール:バッレージ・ジルベルト

1963年11月22日生まれ、イタリア・マルケ州出身。長くイタリアのクラブでGKコーチを務め、2017年8月に同胞のマッシモ・フィッカデンティ監督率いるサガン鳥栖のGKコーチに就任し、19年までに権田修一、高丘陽平らを指導。20年にイタリアに戻り、昨年1月にGKダイレクターとして鳥栖に復帰。これまで培ってきたGK哲学をトップチームから育成年代まで広く伝えている。

「シュートの多くは予測可能で、防ぐことができる」

――ここまではサガン鳥栖でのお話を中心に聞いてきましたが、GKは「ポジショニング」と「テクニック」が大切だということを強く感じました。

「ヨーロッパに目を向けると、インテルのヤン・ゾマーは身長が183cmですが、非凡なプレーを見せています。テクニックがあり、ポジショニングに優れているからこそ、最高の結果を出すことができるのです」

――GKにおける「テクニック」とは、具体的にどのようなものを指すのでしょうか?

「これは私がアカデミーで教えている基本的なことでもあります。グラウンダーのシュートを例に挙げるならば、セーブするときの構え、スピーディーなステップ、ディフレクトへの対応などがあります。シュートの多くは予測可能で、防ぐことができます。セーブできないような難しいシュートをセーブできるようにするのではなく、セーブできるシュートを確実に止められるように教えています」

――そのためにどのようなことを教えているのでしょうか?

「ボールを掴み損ねてしまったり、うまく弾けず失点してしまわないようにするのが基本です。例えば、セーブするときに両手を胸の前に置きますが、ボールの威力を和らげるためには両手が前すぎても、胸に近すぎてもいけません」

――それに加えて、「ポジショニング」も大切ということでしたね。

「ポジショニングが良ければセーブできる可能性は上がります。どこに相手がいて、どこにボールがあるかでポジショニングが決まります」

「私は絶対に『ミス』という言葉を使いません」育成年代とトップチームの違いは?

――トップチームと育成年代で、教える内容に違いはあるのでしょうか?

「トップチームとU-18チームは同じ練習をしていますが、明らかな違いはボールスピードですね。トップチームには技術に優れた選手がたくさんいますから、ボールのスピードが上がるのは当然です。U-18よりもさらに下のカテゴリーでは楽しみながらトレーニングを行っている部分もあるので比較は難しいですね」

――どんなに優れたGKでも、試合でミスすることがあります。

「私は絶対に『ミス』という言葉を使いません。子どもたちには、自分の試合を観るように言っています。『どうしてセーブできなかったのか』『セーブできたのか』『何が悪かったのか』ということを、映像を見て確認していきます。何が必要で、何が不足しているかを考えなければなりません」

――どのようにGKの指導法を築いていったのか、興味が湧いてきます。ジルさんのルーツについてもお訊きしたいです。

「(これまでの真剣な表情が和らぎ、笑みを浮かべて)アスコリ・ピチェーノ(イタリア中部マルケ州の町)は素晴らしいところですよ。小さな町ですが、中世の面影を残し、たくさんのモニュメントがあります。私は自分が生まれたこの町が大好きです」

「イタリアが最高だとは思っていません。ただ…」

――どういう経緯でGKになったのですか?

「もともとGKに憧れていました。GKはチームやチームメイトを救えるポジションで、凄いシュートを防げばヒーローになれますからね。幼い頃はストリートも含めてどこでもサッカーをしていました。今の子どもたちは環境の整ったサッカースクールでサッカーをするものですが、私たちが子どもの頃はストリートがサッカースクールでした。2つの石を置いてゴールを作り、アスファルトの上でよくダイブしていましたよ。

――応援していたクラブはどこですか?

「幼い頃はミランを応援していました。ただ、1974年に故郷のクラブであるアスコリがセリエAに昇格し、それからはアスコリだけを応援しています。今季はセリエBで戦っていましたが、セリエCへの降格が決まってしまい残念です。それでも、これまで何度も復活してきたように、今回も困難を乗り越えることができると信じています」

――イタリアも世界的なGKを輩出してきましたが、世界で最も優れたGKは誰だと思いますか?

「何人か優れたGKがいますが、この選手が最高だというGKは見当たりません。完成されrたGKといえば(ジャンルイジ・)ブッフォンでした。テクニック、それ以外の部分でも彼が最も優秀なGKだったと思います。今だと(ティボー・)クルトワ(レアル・マドリード)、(マヌエル・)ノイアー(バイエルン・ミュンヘン)も素晴らしいGKですね。それから(ジャンルイジ・)ドンナルンマ(パリ・サンジェルマン)にも期待していましたが、ここ最近は良いパフォーマンスが継続して出せていませんね」

※イタリア出身のバッレージ・ジルベルト氏は、60歳となった現在も指導法をアップデートしているという。第3回では時代とともに移り変わるGKの役割に目を向けながら、イタリアで築き上げられた“ジルさん”の指導法にフォーカスしていく。