境遇の異なる2人のOB指導者によって変化。四国準Vの済美は「全国でもできる限り勝ちたい」

AI要約

済美高校が四国大会で快勝し、17年ぶりに全国大会出場を果たす

元Jリーガーの監督が指導し、選手たちは相手を見るサッカーを目指す

新たなコーチも加わり、トレーニングの質が向上し選手たちの成長を促進

境遇の異なる2人のOB指導者によって変化。四国準Vの済美は「全国でもできる限り勝ちたい」

[6.15 四国高校選手権1回戦 済美高 4-0 徳島科学技術高 香川県営サッカー・ラグビー場サブ]

 6大会ぶり5回目のインターハイ出場を決めた済美高(愛媛1)。その勢いのまま四国大会に挑むと、1回戦・徳島科学技術高(徳島2)戦はFW宮内黄(3年)の先制点を皮切りに4点を奪って、4-0で快勝。続く、四国学院大香川西高(香川2)との準決勝では4-3の打ち合いを制した。17日に行われた決勝こそ徳島市立高(徳島1)に0-2で敗れたが、県1部リーグを戦う済美にとって、貴重な経験をつかむ大会になったのは間違いない。

 済美を率いるのは愛媛FCをはじめ、横浜FC、ファジアーノ岡山を渡り歩き、J2通算301試合に出場した経験を持つ渡邊一仁監督だ。2020年限りで現役を引退すると、翌2021年にはコーチとして母校に復帰。現在は監督として指揮を執る。

「僕みたいな潰し屋系のボランチは頭を動かし続けている。ガツガツ行く選手だと思われるけど、色んな計算をしてどこかに追い込んで最後に奪っていた。そうした考えてプレ-してきた経験が、指導者に向いていたと思う」。そう笑う通り、指導者としての適性は合ったのだろう。指揮官の指導力だと思わされる好選手が、今の済美にはいる。

 選手に求めるのは、“相手を見てサッカーをすること”。DF、MF、FWのスリーラインがどんな状態にあり、どこのライン間が空いているかを常に見極め、適切なポジションを取りながら判断よく相手ゴールに向かっていく。自陣からのビルドアップを志すが、相手がハイプレスを仕掛けてきたら、空いた背後に長いボールを入れる判断ができる。今年の3年生は自らが声を掛け、手塩にかけて育ててきた選手が揃い、MF隅田幸輝(3年)と深見月哉(3年)を筆頭に技術と判断力の高さが目を惹く。

 ただ、転身したばかりの頃は指導者としての難しさを感じていた。自らがJリーガーだった頃に触れあってきたのは、アカデミーから昇格した選手がほとんどで、多種多様な選手がいる高校サッカーには指導者として触れていない。

 大学卒業後、四国リーグからJリーグまで選手として這い上がってきた指揮官は「プロで飯を食ってきた熱力で、この子たちとぶつかった」が、自身とレベルが違えば、モチベーションも違う。最初は選手との温度差に戸惑ったが、「今は“お前たちでもできる”と自信を植え付ける作業もセット」と口にする通り、高い基準を求めつつも、上手く高校サッカーに適合し始めている。

 昨年までは渡邊監督一人でAチームを見ていたが、今年から名参謀も加わった。チームOBで大阪体育大卒業後、8年間に渡って青森山田高で指導してきた松本晃コーチだ。渡邊監督は「青森山田で8年やってきて、勝ち方を一番近く見ているので、真似すれば良い」と全幅の信頼を寄せ、試合でも頻繁にアドバイスを求めている。

 大きな変化が見られるのはトレーニングの質だ。渡邊監督はこう笑う。「僕は練習で剥がすことなど攻撃の部分を植え付けてきた。目の前の選手を剥がせたら、僕は『良いぞ!』となるけど、松本先生からしたら『守備が甘いから上手く行っただけだ』となる。『良いぞ!』と僕が言っても、横からピピピピ!と笛が鳴って、練習が止まり、指摘が入る。僕自身『ああ、確かに!』と思わされることが多い。そうしたニュアンスが入ってきているから、今のうちは凄く良くなっている」。

 選手自身も確かな変化を感じている。インターハイ予選はチームが目指す“相手を見るサッカー”ができなかった。相手の土俵に持ち込まれ、これまで不慣れだった競り合いの機会も多かったが、それでも粘り強くトーナメントを勝ち抜いた。

「自分たちがしたいサッカーはできなかったけど、蹴り合うサッカーでもやり合えていた」と隅田は語り、「松本晃先生にフォームから叩き込まれたので、前に比べてヘディングが強くなった。強度も凄く言われる部分。練習中の声もそうですし、みんながやらなければいけない雰囲気を全員で作れているのが一番大きい。練習でのプレッシャーが全く変わりました」と続けた。

 今の済美は渡邊監督が作ってきたサッカー選手としての土台の上に、松本コーチが建物を作っている段階と言えるかもしれない。境遇は違うOBの2人によって作られる済美は、着実に選手、チームとして成長を続けて久しぶりの全国大会に挑む。「全国でもできる限り勝ちたい。1番は子どもたちに色んな物を経験させて、冬に向けての土台作りをしたい」。渡邊監督の言葉通り、四国大会に続き、成長するための財産を再び手にするつもりだ。

(取材・文 森田将義)