同学年・藤井聡太21歳から「タイトル奪取あるのでは?」伊藤匠の才能をA級棋士・中村太地が語る「“寝て起きたら強くなる”時期に2人は…」

AI要約

第9期叡王戦、藤井聡太叡王と伊藤匠七段の第5局を前に、伊藤七段が逆転勝利を挙げた第3局について解説。

藤井叡王と伊藤七段の対局では、藤井叡王の予測不能な手を伊藤七段が的確に対応し、勝利をものにした。

伊藤七段の終盤の正確さと藤井叡王に挑む姿勢が際立ち、第2局・第3局での勝利が大きな自信につながった。

同学年・藤井聡太21歳から「タイトル奪取あるのでは?」伊藤匠の才能をA級棋士・中村太地が語る「“寝て起きたら強くなる”時期に2人は…」

 21歳同士の若き才能が、盤上でつばぜり合いを繰り広げている。第9期叡王戦、藤井聡太叡王と伊藤匠七段の番勝負は2勝2敗のタイで6月20日、勝負の第5局を迎える。この一番を前にA級棋士・中村太地八段(36)に両者の将棋の充実ぶりなどを聞いた。(全2回)

 伊藤七段が藤井叡王に勝利した5月2日の叡王戦第3局、私はABEMAの解説を務めました。本局を簡潔にまとめると〈藤井叡王がやや抜け出しそうになったところ、伊藤七段が競り合った末に抜け出して逆転勝利を飾った〉という展開でした。実際、評価値が示していた形勢もそれを描いていました。

 現地に行かれた方の話を総合すると……藤井叡王自身もやや優勢であることは自認して指し進めていたのではないかと推測します。あの将棋ではきっと、藤井叡王の中にも見えていない変化、考えられていない水面下での変化が非常に多く深かったのだと思います。

 だからこそ、その将棋に持ち込みながら勝利をものにした伊藤七段の強さが際立ったというか、「これはタイトル奪取、あるのでは?」と第3局の解説が終わった時点で感じさせられるものでした。

 そもそも伊藤七段が形勢を入れ替えたとはいえ、そこから勝ち切るのも非常に大変な将棋だなと感じていました。優勢になってから終局を迎えるまでに数十手ほどかかっているのですが、藤井叡王が逆転を狙うために仕掛けた手に対しても、的確に対応していた。

 本局で言うと、伊藤七段の攻めに対して受けの手を続けていた藤井叡王が、突然「4三桂」と攻めてきた。このように藤井叡王は不利になってから「相手に難しい手を渡す、難しい局面を相手に提示する」能力にもすごく長けているのです。

 今までだと藤井叡王に再逆転を許して……という対局はファンの方も何度かご覧になってきたかと思います。だからこそ伊藤七段の終盤の正確さに舌を巻くばかりです。

 1勝1敗のタイとした第2局もそうでしたが、勝利するためのルートはほぼ唯一のものでした。その針の穴に糸を通すようなギリギリの進路を、秒読みの中でも選びきるという点に伊藤七段の非凡さが表れていました。さらに言えば、この1勝は伊藤七段自身にとっても「終盤で藤井叡王相手に競り勝てた」という、大きな自信になったのではないでしょうか。