【ユーロ】初戦快勝のスペインに大きな変化 ボール支配率で相手を下回るのは実に112試合ぶり

AI要約

スペイン代表は欧州選手権で幸先の良いスタートを切り、ポゼッションサッカーからの脱却を図りながら攻撃力を高めている。

最新の戦術と選手起用で好成績を収めており、12年ぶりの優勝を目指して強豪国との対戦を続けている。

デラフエンテ監督の手腕が光るスペイン代表は、新たな戦い方で国民の期待を裏切る可能性がある。

【ユーロ】初戦快勝のスペインに大きな変化 ボール支配率で相手を下回るのは実に112試合ぶり

 決勝トーナメント1回戦敗退という、失意の2022年ワールドカップ(W杯)カタール大会から早くも1年半が経過。今、スペイン代表は欧州選手権(ユーロ2024)で3大会ぶり、通算4度目の優勝を目指し、初戦で幸先の良いスタートを切ることに成功した。

 ■ゴール前の壁を崩せなかった近年

 スペイン代表は近年、ビッグトーナメントで良い結果を出せていない。しかし、16年の欧州選手権でイタリアに敗れた後、2度のW杯と1度の欧州選手権で計14試合を戦ったなかで、敗北を喫したのはW杯カタール大会の日本戦のみ(※PK戦は引き分けにカウント)。

 18年のW杯ロシア大会は決勝トーナメント1回戦でホスト国、21年の欧州選手権は準決勝でイタリア、22年のW杯カタール大会は決勝トーナメント1回戦でモロッコ相手にそれぞれ、慢性的に抱える決定力不足を露呈した末にもつれ込んだPK戦で敗れた。

 ボールキープに優れるスペインと対戦する相手の多くは、後ろに引いてカウンターを狙う戦術を取るのが定石となっている。スペインはこの3試合とも相手を押し込み、シュート数で圧倒したにもかかわらず(ロシア戦24本-7本、イタリア戦16本--7本、モロッコ戦13本-6本)、ゴール前に築き上げられた壁を崩すことができなかったのだ。

 長年続くこの状況を払拭すべく、W杯カタール大会後にルイス・エンリケ(現パリ・サンジェルマン監督)に代わって新たに就任したデラフエンテ監督(※東京五輪でスペイン代表を指揮)は、その手腕により今日まで順風満帆な歩みを見せている。

 ■昨年3月以降は10勝2分け2敗

 昨年3月に新体制がスタートしてから欧州選手権前までの通算成績は、14試合10勝2分け2敗。その間に欧州ネーションズリーグ(NL)で初優勝を果たし、8大会連続、通算12回目の欧州選手権出場権を獲得した。

 選手選考に偏りがあった前任者と違い、デラフエンテ監督は”クラブで活躍したらすぐにテストする”という、非常に分かりやすい基準で選手に大きなモチベーションを与えてきた。これにより今大会のメンバー26人のうち、実に16人、61.6%の選手がW杯カタール大会から入れ替わっている。

 連続で選ばれたのは、GK=ウナイ・シモン、ダビド・ラヤ、DF=カルバハル、ラポルテ、MF=ロドリゴ、ペドリ、FW=フェラン・トーレス、ダニ・オルモ、ニコ・ウィリアムズ、モラタの10人のみ。ブスケツとジョルディ・アルバは代表を引退し、バルデ、ガビ、ジェレミ・ピノは負傷欠場を余儀なくされた。

 1年半前からの大きな変化は、W杯カタール大会では招集ゼロだったレアル・ソシエダードから、最多となる5人(レミーロ、ル・ノルマン、スビメンディ、ミケル・メリーノ、オヤルサバル)が選ばれたことだろう。

 また、新たにヤマル、フェルミン・ロペス、バエナといった若い力が加えられた。その一方で、ヘスス・ナバス、ナチョ、ホセルといった30オーバーのベテランの経験も必要としている。指揮官は試行錯誤を繰り返しながら、この新旧入り混じったチームに辿り着いた。

 ■1試合平均2・85点の高い攻撃力

 デラフエンテ監督は就任会見時、これまでの決定力不足を解消する手立てとして、前任者よりも攻撃的なサッカーを展開することを目標に掲げた。その言葉通り、スペイン代表のアイデンティティーと言えるポゼッションサッカーの香りを残しつつ、両サイドのスピードを生かしたカウンターを取り入れ、14試合で40得点を挙げ、1試合平均2・85得点と高い攻撃力を示してきた。

 欧州選手権に向けた最後のテストマッチ2試合(アンドラ、北アイルランド)では、オヤルサバルがプロキャリア初のハットトリックを達成するなどの朗報もあり、ともに5得点を奪って圧勝し、良好な状態で今大会を迎えることができた。

 そしてクロアチア、イタリア、アルバニアが同居する厳しい1次リーグの中、初戦のクロアチア戦は、その仕上がりの良さを見せつける結果となった。

 サイドバックのカルバハルとククレジャが躍動し、ウナイ・シモンが凡ミスを挽回すべくPKをストップ。1得点1アシストでMVPに選ばれたファビアン・ルイスが中盤で素晴らしい働きを見せ、大会最年少出場記録を16歳338日で更新したヤマルが右サイドで輝きを放った。

 調子を落としていたモラタがGKとの1対1を冷静に制した先制点を皮切りに、ファビアン・ルイスが卓越した個人技で2点目を記録し、ヤマルの正確なクロスからカルバハルが3点目を押し込んだ。難しいと思われた初戦を3-0で快勝し、幸先よいスタートを切ることに成功した。

 ■ポゼッションに固執せず奏功

 これ以上ない結果を得た試合となったが、スペインにひとつの大きな変化が見られた。それはボール支配率でクロアチアを下回ったことだ(46%-54%)。W杯カタール大会4試合(コスタリカ、ドイツ、日本、モロッコ)の平均が76・3%と圧倒的だったことからも分かるように、スペインがボール支配率で相手に劣ることは滅多にない。

 事実、それまで最後にボール支配率が下回った試合となると、約10年前の14年11月18日に行われた親善試合のドイツ戦まで遡る必要がある(47%-53%)。クロアチア戦は112試合ぶりにボール支配率で相手を下回る試合となったのだ。

 しかし今回は、ポゼッションサッカーにそこまで固執しないプレースタイルで戦ったことが功を奏したと言えるかもしれない。これまでのスペインは、その圧倒的なボール支配率によって相手に徹底的に引かれてしまい、自滅することが何度もあった。しかし、今回は相手にボールを持たれた状況からチャンスを生み出した。DFの背後に大きく空いたスペースに縦パスを通すカウンターが先制点につながったのだ。

 デラフエンテ監督は試合後、ボール支配率について指摘されるも、「我々のようにスピードのあるチームであれば、それほどボールを持つ必要がないことが証明されている」と特に気にしていない。

 ■ティキ・タカ掲揚が最大の過ち

 スペイン紙マルカは今回の戦い方について、「デラフエンテ監督率いる代表チームの大きな功績は、これまでスペインに大きな成功をもたらしてきたスタイルを改善するため、それに変化を加える方法を知っていたことだ」と新たな取り組みを高く評価した。

 続けて、「我々の国旗はこれまでずっと“ティキ・タカ(スペイン代表のテンポ良くパスを回すプレースタイル)”であり、それを船に掲揚しないことは違反を犯すことになった。しかし、それが最大の過ちであり、我々は時代に適応する術を知らなかったのだ」と、スペイン代表がこれまで長きに渡って信奉してきた“ポゼッション至上主義”からの脱却を図ったことをポジティブに捉えていた。

 ■下馬評覆し12年ぶりの優勝へ

 スペインは開幕前、イングランド、フランス、ドイツほど優勝候補とは目されておらず、国民からの期待もそこまで大きくなかった。しかし、負けにくい強さを誇るクロアチアに快勝したことは、おそらくこの前評判を覆すのに十分役立つものとなるだろう。

 デラフエンテ監督指揮のもと、これまでと違った戦いを見せるスペインはこの後、イタリア、アルバニアと対戦し、1次リーグを終了する。12年ぶりの優勝を目指し、タフな試合が続いていく。【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)