絶対に負けられない不安とプレッシャーに打ち克った王者の咆哮。青森山田は粘る八戸学院野辺地西を1-0で振り切って県24連覇達成!

AI要約

青森山田高校が八戸学院野辺地西高校を1-0で破り、県内公式戦408連勝と県24連覇を達成した。メンバーのほとんどが卒業したチームが新たなタイトルを手に入れた激闘を振り返る。

試合の展開や両チームの攻防、選手たちのコメントなどを詳細に解説。青森山田が勝利を収めた要因や絶対王者としての強さも浮き彫りになる。

今季のチームが手にしたインターハイ出場権は、過酷なスケジュールに挑む意気込みが感じられる。青森山田の逆襲が本格化し、全国タイトルを目指す姿勢が強く表れている。

絶対に負けられない不安とプレッシャーに打ち克った王者の咆哮。青森山田は粘る八戸学院野辺地西を1-0で振り切って県24連覇達成!

[6.3 インターハイ青森県予選決勝 青森山田高 1-0 八戸学院野辺地西高 カクヒログループアスレチックスタジアム]

 自分たちの纏っている力に自信があろうがなかろうが、自分たちが本当に勝てるかどうかの不安があろうがなかろうが、次の大会は必ずやってくる。絶対に負けてはいけない、絶対に勝ち続けなければいけない、400を超える連勝の懸かった、プレッシャーしかない試合の連続が。

「県内の連勝記録の話は何回もされていましたし、20年間負けなしというのはプレッシャーにもなったんですけど、やっぱり数々の先輩たちが紡いできた伝統もあったので、今日は勝ててホッとしています」(青森山田高・小沼蒼珠)。

 シビアなゲームを逞しく勝ち切って、県内公式戦408連勝と県24連覇を達成!令和6年度全国高校総体(インターハイ)青森県予選決勝が3日、カクヒログループアスレチックスタジアムで開催され、青森山田高と八戸学院野辺地西高が対峙した一戦は、拮抗した好ゲームが展開された中で、後半25分にMF川口遼己(3年)のゴールで先制した青森山田がそのまま1-0で勝利。27回目となる夏の全国切符をもぎ取っている。

 立ち上がりは八戸学院野辺地西の勢いが鋭い。キャプテンのFW堀田一希(3年)とFW成田涼雅(3年)が組んだ2トップが前線で基点を作りつつ、ドイスボランチのMF阿部莞太(2年)とMF木村隆太(1年)を中心にセカンドボールもことごとく回収。前半7分には木村を起点に成田が右へ流し、堀田のシュートは枠の左へ外れたものの好トライ。22分はデザインされたセットプレー。木村が小さく出したFKを阿部はグラウンダーで縦へ。走った堀田のシュートはDFにブロックされたものの、「サイドハーフがサイドバックのところまで吸収されなかったので、セカンドを拾ってそのままサイドに展開したり、トップにボールを入れられましたね」と三上晃監督が話したように、前からの積極的な守備も含めてチームのやりたいことを体現してみせる。

 31分にも八戸学院野辺地西に決定機。センターバックを務めるDF奈良良祐(3年)の縦パスを受けたMF千葉日向(3年)はシンプルに裏へ。走った成田がドリブルから放ったシュートは左ポストの外側に弾かれたが、「試合をやる前から自分はスピードでは絶対に勝てると思っていました」という11番のあわやというフィニッシュに、スタンドからもどよめきが巻き起こる。

「今年の野辺地西さんは力があって、本当に1点を争うゲームだということで、絶対に失点だけはしたくなかったので、ウチが後ろに重たくなったことで、逆に向こうはやりたいことが出やすい状況でもあったと思います」と正木昌宣監督も言及した青森山田は、ようやく34分にチャンス創出。川口が左へ振り分け、MF大沢悠真(3年)がカットインから放ったシュートはゴール左へ逸れるも、漂わせたゴールの匂い。前半の35分間はスコアレスのままで終了した。

 後半のファーストシュートは青森山田。4分。右サイドで相手のボールを奪い取ったMF別府育真(3年)が、そのまま狙ったシュートはクロスバーを越えたものの、切り替えの速さに滲むのはハーフタイムに施されたであろう“喝”の影響。10分にも別府のクロスに走り込んだ川口のヘディングは枠を外れるも、「後半は山田さんの出足のところがワンランク上がりましたね」と三上監督も言及した通り、青森山田のボールアプローチが相手を上回り始める。

 それでも八戸学院野辺地西は怯まない。14分には堀田が粘って残し、成田が打ち切ったシュートは青森山田のGK松田駿(2年)がファインセーブで何とか回避。19分にも成田が中央を単騎で運び、そのまま枠へ飛ばしたシュートはここも松田がキャッチしたが、「自分たちにもチャンスが多くて、1本どっちかが決めれば流れが変わると思っていました」とは堀田。最終ラインもDF中野渡琉希(2年)と奈良のセンターバックコンビを中心に堅陣を築き、『どっちかの1本』を狙い続ける。

 まさに一進一退の状況で輝いたのは、「仲間が必死に繋いでくれているので、自分は前の選手としてゴールを決めるのが役目です」と言い切ったナンバー14。25分。前を向いた別府が右へ展開すると、駆け上がってきた右サイドバックのDF中島斗武(3年)はグラウンダーで中へ。川口が巧みに合わせたシュートは、ゴール左スミへ吸い込まれる。「ああいう低いクロスで勝負しようということを伝えていたので、その形でゴールになったのは良かったのかなと思います」と正木監督も納得の先制弾。残り10分で青森山田が1点のリードを奪う。

 こうなった絶対王者は強い。「1点入った時には『このまま行くぞ』という気持ちはありましたし、後半に入ったら自分はいつも1つギアを上げられるような感じでいるので、守備でも全体の集中力が上がりましたね」と話したのはキャプテンのDF小沼蒼珠(3年)。右から中島、DF伊藤柊(3年)、MF山口元幹(3年)、小沼で組んだ4バックを中心に、高い集中力で相手の攻撃を1つずつ丁寧に潰していく。

 70分に追加された3分間も過ぎ去ると、曇天の空に吸い込まれたタイムアップのホイッスル。「相手の力は十分理解していましたし、仕事ができる選手もいっぱいいることは分析の中でわかっていたので、だからこそゼロで行けたことは評価できるのかなと思います」と正木監督も守備陣を称えた青森山田が、粘り強く“ウノゼロ”で勝利を収め、県内王者の座を死守する結果となった。

「やはり一番の不安として『インターハイに行けるのかな』というところはかなりあったと思います」。激闘を制した試合後、青森山田を率いる正木監督は率直な言葉を口にした。プレミアリーグと高校選手権の二冠を達成した昨季のメンバーがほとんど卒業した中で、今季のプレミアではここまで2勝2分け3敗の8位と、なかなか思うような結果を手繰り寄せられない状況で迎えた今大会。経験の浅い選手たちに不安がなかったはずがない。

 ただ、彼らは勝利だけを義務付けられたこのインターハイ予選を1つずつ勝ち上がるごとに、確かな自信を掴み始めていた。小沼が言葉に実感を込める。「3回戦も、準々決勝も、準決勝も無失点で積み上げてこられたので、そこは1つの自信になりましたし、決勝戦が始まる前はそういったことをしっかり思い出して、自分たちのやるべきことをしっかりやれば大丈夫だということは話したので、自信を持って挑めた試合ではありました」。迫り来る強大なプレッシャーに打ち克ち、負けてもおかしくないような内容のゲームをきっちり勝ち切って手にしたタイトルは、後から振り返った時にターニングポイントになり得るだけの、大きな成果だと言っていいだろう。

 圧倒的な強さを誇った昨季のチームが、唯一獲れなかった全国タイトルがこのインターハイ。そこへと挑戦する権利は、今季のチームも手繰り寄せた。「インターハイは連戦で、選手権と違って中1日も空かない分、日常生活の過ごし方が大事だと思うので、そこは隙なく、今まで以上に山田のやるべきことを積み上げて、まずは一冠を獲りたいなと思っています」(小沼)。目指すは松木玖生(FC東京)を擁した2021年以来となる、3年ぶりの夏の戴冠。一皮剥けつつある青森山田の逆襲は、ここからがいよいよ本番だ。

(取材・文 土屋雅史)