古代エジプトで行われた「兄妹婚」を数学的に説明する…特殊な「結婚規則」も本質的には同じと言える理由

AI要約

異なる地域で似た文化が生まれる謎を解明するために文化人類学が取り組む普遍人類学の研究。

結婚に関する規則からみる文化の類型化。自集団内での結婚を取り巻く規則の多様性。

世界各地で見られる集団内での結婚を規定する文化的慣習の例。カースト制度や貴族の結婚規則。

古代エジプトで行われた「兄妹婚」を数学的に説明する…特殊な「結婚規則」も本質的には同じと言える理由

遠い地域の文化がなぜ似ているのか、これは文化人類学における一つの究極的な謎である。百年以上にわたり、文化人類学者たちは諸地域の文化を記述し、それらの間に構造的なパターンを見出してきた。

本稿では、よく似た文化が生まれるのは人間が社会を作る限りにおいて、いつでも成り立つ“仕組み”が存在するからだという仮説のもと、人間文化に普遍的な構造について考える。

この研究分野は普遍人類学と呼ばれ、数理モデルのシミュレーションによって、社会構造が生まれる原理を探求する。

これまで二回にわたり、結婚に関する規則について、世界各地の文化を紹介してきた。その中で、多様な規則にもいくつかの典型的なパターンがあることを示し、それらが生まれる仕組みを考察した。

『なぜ異なる地域で似た文化が生まれるのか…数理モデルが解明する「人間社会」の普遍性』では、自分が所属する集団に応じて、結婚しなくてはならない集団を定める規則が生まれる仕組みについて解説した。

『“一夫多妻婚”にはルールがあった…物理学で考える「親族の構造」』では、自分が所属する集団の外であれば、誰と結婚してもいいという規則が生まれる仕組みを示した。

これまでに扱ってきたのは、どちらも自集団以外の人と結婚するような規則である。しかし、世界には逆に自分と同じ集団の人と結婚するように定める規則も存在する。

(図の説明)結婚の規則の種類。図で黒丸は文化的な同胞集団を表し、矢印は結婚の可能性を表す。二つの集団が矢印で結ばれているときに、それぞれのメンバーの間の結婚が認められる。(A)(所属する集団に応じて、)どこか一つの集団に属する相手とのみ結婚が認められる規則。(B)自集団内でのみ、結婚が禁止される規則。(C)自集団内でのみ結婚が認められる規則。

世界各地の結婚の規則はおおよそ、図の三つのタイプに分類することができる。すなわち、

(A)所属する集団に応じて、自分の集団以外のどこか一つの集団に属する相手とのみ結婚が認められる規則

(B)所属する集団の外であれば、誰と結婚してもいいという規則

(C)所属する集団の中で結婚しなければならないという規則

である。

(C)の自集団内で結婚しなければならないという規則について、おそらく最も有名な例はインドのカースト制だろう。バラモン(祭司)・クシャトリヤ(武士)・ヴァイシャ(平民)・シュードラ(隷属民)という四つのカーストが存在して、カースト内で結婚せねばならないというものである。

正確にはもう少し集団の単位は細かく、ジャーティというさらに細分化された職業集団(壺作りのジャーティ、土地所有のジャーティなど)がインド全体で数千存在している。つまり、「同じジャーティの人と結婚せよ」というのがインドの伝統的な結婚の規則である。

このように、自分と同じ集団に属する人と結婚する慣習はアラブの社会にも見られる。

また、貴族が貴族階級の内部でしか結婚しないという例は、極めて多い。その最たる例は古代エジプトにおいて、ファラオが兄弟姉妹どうしで結婚したことだろう。