”一夫多妻婚”にはルールがあった…物理学で考える「親族の構造」

AI要約

文化人類学者たちは、世界中の文化を記述し、結婚に関する規則の違いを解明してきた。

結婚の規則は所属する集団ごとに異なり、同じ集団の人とのみ結婚が認められる場合や、他の集団の人であれば誰とでも結婚してよい場合などがある。

クロード・レヴィ=ストロースは、親族の基本構造と複合構造の2つの結婚規則の体系を提唱し、規則の成立には心理的、政治経済的な要因が関わっている。

”一夫多妻婚”にはルールがあった…物理学で考える「親族の構造」

百年以上にわたり、文化人類学者たちは諸地域の文化を記述し、それらの間に構造的なパターンを見出してきた。「遠い地域の文化がなぜ似ているのか」、これは文化人類学における一つの究極的な謎である。

中でも、人々が誰と結婚してよくて、誰としてはならないか、を定める規則についての文化は、多くの時代と地域の社会に見られるものである。

『結婚をめぐる「つながり」と「反発」の力は社会構造に影響していた…数理モデルでレヴィ=ストロースの謎を解く』で解説したように、普遍人類学は、社会の人々がいくつかの文化的集団に分けられ、所属する集団ごとに特定の集団の人と結婚しなければならないという規則が進化する仕組みを、数理モデルによって説明した。

この規則は「この集団の人と結婚せよ」という種類の規則であるが、これとは逆に「この集団の人とは結婚してはいけない」という種類の規則もある。 それでは後者の規則はどのような仕組みで生まれるのだろうか?今回は、以前に考察した親族構造の進化の仕組みを応用して、考察の対象を広げてみたい。

中国や韓国にはかつて名字が同じ同姓の人との結婚を禁じる法があった。アフリカのヌエル族の社会においては、自分の集団に加えて、自分の一族の誰かが結婚したことがあると記憶している集団の人とも結婚してはならない。富裕な男性が複数の妻を持つ一夫多妻婚では、同じ男性と結婚した妻たちが異なる集団から来ていることが少なくない。

日本では、法的に結婚が禁じられているのは、親・兄弟・叔父・叔母などのごく身近な近親者だけであるため、あまり馴染みがないかもしれないが、世界にはこのように、血縁関係がないにも関わらず結婚してはいけない相手を定める規則も珍しくない。

(図)結婚の規則の種類。図で黒丸は文化的な同胞集団を表し、矢印は結婚の可能性を表す。二つの集団が矢印で結ばれているときに、それぞれのメンバーの間の結婚が認められる。(A)所属する集団ごとに、どこか一つの集団に属する人とのみ結婚が認められる規則。(B)自集団内での結婚のみを禁止する規則。

上に述べた結婚の規則の違いは図のように表すことができる。

すなわち、

(A)所属する集団ごとに、(自集団以外の)どこか一つの集団に属する人とのみ結婚が認められる規則

(B)自集団以外の人であれば誰と結婚してもよいという規則

である。ヌエル族や一夫多妻婚の例は(B)の規則から、過去の結婚関係をもとに結婚可能性の矢印を何本か取り除いたものだと思えばよい。

文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロースは、前者の規則の体系を「親族の基本構造」、後者の体系を「親族の複合構造」と呼んだ。

複合構造の特徴は、規則は結婚してはいけない相手だけを定めていて、人々はこの人が好き、この集団とつながりたいというような、心理的、政治経済的な理由で相手を選べることである。

では、これらの規則はどのような仕組みで生まれるのだろうか?