ヒヨケムシとは何者か、カニのハサミ似の巨大なアゴに電光石火の速さを誇る砂漠のハンター

AI要約

イラク戦争当時に広まったヒヨケムシの風評や誤解について述べられている。

ヒヨケムシは実際には巨大でもなく、人を襲うこともないが、素早いハンターであることが事実である。

ヒヨケムシはクモ目ではなく、ヒヨケムシ目に属し、写真によって実際より大きく見せられていることもある。

ヒヨケムシとは何者か、カニのハサミ似の巨大なアゴに電光石火の速さを誇る砂漠のハンター

 英語では通称ウィンド・スコーピオンやキャメル・スパイダーと呼ばれるヒヨケムシ。2003年のイラク戦争の際、ヒヨケムシの残虐性を物語る風評がネット上で流れ始め、世間をあっと言わせた。

 そのようなサイトには、人間の半分にも達するほど大きいクモの写真がたくさん使われていた。それ以来、中東でのうわさは誇張されて広まった。ヒヨケムシは巨大で毒を持つハンターだとか、人間と同じ速度で走り、大きな哺乳類をもむさぼり食うなどといった話だ。

 しかし、それらはまったくのでたらめだ。彼らは実際にラクダの腹を食い破ったり、眠っている兵士を襲ったりはしないし、それほど大きくもない。だがそれでも、ヒヨケムシが驚くべきハンターであることは事実である。

 誤った情報が出回った背景には、クモ類だと思われていることにあった。彼らはクモではない。確かにクモに似ており、クモ綱(Arachnida)には属するが、クモ目(Araneae)ではなくヒヨケムシ目(Solifugae)である。全長は約15センチである。実際の大きさの6倍あるように見せている写真があり、誤解を招くような印象を与えているが、そういった写真では彼らが必ず前景に置かれ、レンズによって実際より大きく見せているのである。また、速く走ることは確かだが、それはほかのクモ形類と比べた場合の話である。最高速度は、時速16キロくらいと推定される。

 人間がかまれて死ぬことはないが、昆虫やネズミ、トカゲ、小鳥などを殺す凶暴な捕食動物である。砂漠の環境に耐え、最大で体長の3分の1にもなる大きくて強力なアゴを使って獲物を捕らえ、切り刻んだり、ノコギリでひいたように切断したりして肉片にしてしまう。毒は持っていないが、消化液を使って獲物の肉を液化し、すんなりと腹の中に収める。