進歩した造血幹細胞移植 ~移植後の苦しみ救済が課題~

AI要約

白血病をはじめとする血液のがんに苦しむ患者にとって、造血幹細胞移植は重要な治療法となっている。しかし、移植後に起こる苦しい症状が課題となっており、新薬の登場に期待が寄せられている。

造血幹細胞移植には、自家移植と同種移植の2つの種類があり、適切なドナーの見つけ方が治療の鍵となっている。

移植後には免疫反応による移植片対宿主病(GVHD)により、患者の体に悪影響が及ぶことがあり、それが治療の難しさにつながっている。

進歩した造血幹細胞移植 ~移植後の苦しみ救済が課題~

 白血病をはじめ「血液のがん」といわれる病気は厳しい病気だ。有効な治療法とされるのが、血液のもとになる造血幹細胞の移植で、ドナー(細胞の提供者)を広げることで進歩してきた。しかし、移植が成功しても患者の苦しみは続く。長年、白血病と向き合ってきた北海道大学大学院の豊嶋崇徳(てしま・たかのり)教授(血液内科)は「移植後に患者が襲われる苦しい症状を改善したい」と強調、最近登場した新薬に注目している。

 移植の種類は「自家移植」と「同種移植」がある。自家移植は患者自身の造血機能が保たれている間に造血幹細胞を取り出して保存する。大量の抗がん剤投与などによる治療で血液内のがん細胞を消滅させた後で、保存していた造血幹細胞を患者の体内に戻す。使われるのは末梢血幹細胞で、患者自身がドナーとなる。同種移植では、血縁者と非血縁者がドナーとなり、末梢血幹細胞、骨髄、臍帯(さいたい)血が使われる。

 造血幹細胞移植が成功するためには、条件がある。ドナーと患者のヒト白血球抗原(HLA)という型の一致だ。HLA適合者は兄弟姉妹では4分の1の確率で見つかるが、血縁者でないと適合確率はぐっと下がる。兄弟姉妹でも4分の1にすぎない。しかし、完全に一致しなくても、ある程度の合致である(半合致)でよければ、ドナーの対象は広がる。豊嶋教授は「家族に回帰し、血縁者に対象を広げることで、ドナー不足の問題が一気に解消された」と説明する。このやり方は、30年前の日本の基礎研究者たちのアイデアを米国の医師が試行錯誤しながら臨床応用したものだという。

 ただ、次の課題が浮上した。

 豊嶋教授は造血幹細胞移植について「40~50%の人は移植で病気が治る。かなり強力な治療だ」と評価した上で、課題を指摘する。ドナーから提供される細胞には、免疫細胞も含まれる。例えば、弟が白血病患者で姉がドナーの場合、免疫細胞は弟の体を自分自身ではないと認識し、攻撃してしまう。

 その症状について豊嶋教授は「移植片対宿主病(GVHD)と言い、急性GVHDと慢性GVHDがある。急性は移植後の短期間で起こる症状で、強い炎症を伴い、皮疹や黄疸(おうだん)、下痢などが見られる。一方、慢性GVHDについて豊嶋教授は「熾火(おきび)のようにじわじわとくすぶり、ゆっくりと全身をむしばみ、消耗させる」と説明する。

 体力や気力の低下、外見が悪くなって人に会いたくない。就学や就労にも悪影響を及ぼす。ステロイド剤の長期投与によって糖尿病や骨折などの危険を高める。

 豊嶋教授は「移植後の患者は血球が不安定だったり、減少したりする。さらに、免疫不全により感染症の危険も高まる。従来のGVHD治療はこうした悪い面を助長する」と言う。それが、治療の継続を困難にしている面がある。