3万円の泡盛試飲ツアー 完全予約制で3時間 忠孝酒造の社長が伝えたい価値とは

AI要約

忠孝酒造が提供する泡盛体験ツアーでは、高付加価値化を目指している理由が垣間見える。

ツアーでは泡盛の種類をテイスティングし、香りや味わいの違いを比較することができる。

また、泡盛に関する学術研究や科学的な解説も行われ、知的好奇心を刺激する要素が盛り込まれている。

3万円の泡盛試飲ツアー 完全予約制で3時間 忠孝酒造の社長が伝えたい価値とは

 豊見城市の忠孝酒造が泡盛を1人3万円で楽しむツアーを提供している。沖縄県民にとって「安価で手に取りやすいお酒」とのイメージもある泡盛。出荷量の減少に歯止めがかからず、軽減税率の段階的な縮小も始まった苦境の業界で、なぜ高付加価値化を目指すのか。ツアーを体験してみると、売り込み戦略のヒントが見えてきた。(デジタル編集部・川野百合子)

 体験ツアーの名称は「泡盛VIPアカデミー CHUKO 月あかり」。完全予約制で、泡盛がずらりと並ぶ「忠孝蔵」や貯蔵用の甕(かめ)を焼く「忠孝窯」、県内最古の木造の2階建て貯蔵施設「木造古酒蔵」などの見学も併せて約3時間のツアー。1回5人限定で1人3万円。メインの体験会は忠孝蔵内にある専門のバーカウンター「月あかり」で開催される。ホテルのバーのような洗練された空間で、泡盛の甕が並ぶ蔵の中とは思えないような特別感を醸し出す。

 「いらっしゃい、どうぞお座りください」。バーカウンターの中に立つ案内人の大城勤社長に促されて席に着いた。

 カウンターの上には忠孝窯で作られた10個のオリジナルのおちょこが並べられている。泡盛の概要を紹介した冊子のほか、問診票のような、飲み比べた香りや味わい、感想を記載するシートもある。

 ツアーは3部構成。第1部では新酒3種類、古酒3種類、テロワール2種類の 計8種類をテイスティングする。全て、お酒のコンペティションで受賞した忠孝酒造のこだわりの酒だ。それぞれの泡盛の製法や麹(こうじ)の製法などを聞きながら、泡盛の蒸留方法や酵母、技法、原料の米の違いによって変わる香り、味わいを比較できる。

 例えば忠孝酒造で最も販売数量が多い新酒の30度「夢航海」は青リンゴのような、フルーティーな香り。通常2日間でつくる麹を4日かけてつくったという43度の新酒「よっかこうじ」はラ・フランスや香辛料のアニスのようなフルーティーな香りがある一方で、口当たりが柔らかく、濃厚な味がする。さっぱり系の泡盛は炭酸割りや水割りが飲みやすく、芳醇な香りや濃厚な味わいの泡盛であれば、半分凍らせた「パーシャルショット」がいいーなど、泡盛の特徴に合った飲み方のヒントも探ることができる。

 第1部の目玉は「香りが開く」体験だ。おちょこに泡盛を注いで30分ほど置いておくと、空気に触れて甘い香りが一層強くなる。芳醇な香りを泡盛では「キャラメル香」と表現することも多いが、まさにキャラメルのような甘い香りが広がる。時間がたつごとに変わる香りや味わい。大城社長は「言葉で説明しても分かりにくいが、体験してもらえば分かる」と力を込める。 

 泡盛に関する学術論文の歴史や、その意義についての説明もある。東京農業大学の醸造学科を卒業した大城社長が、酵母や製法の違いが泡盛の香りや味わいにどう影響するのか、最新の学術研究なども紹介しながら解説する。

 空気に触れて甘い香りが強くなるのは「ソトロン」という成分が影響しているためで、貯蔵する容器がステンレスか、甕かによっても出方が違うという。泡盛の科学に触れることで、知的好奇心も刺激するような仕掛けになっている。