【牧之原バス置き去り】「とてつもない喪失感と絶望感」両親が心情陳述 静岡地裁公判

AI要約

2年前の9月、牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」の送迎バスで置き去りにされた3歳の河本千奈ちゃんが熱中症で死亡した事件の静岡地裁での公判が開かれ、千奈ちゃんの両親が涙ながらに心情を訴えた。

母親は喪失感と絶望感を語り、愛する娘を宝物だと強調。父親は被告の行動に疑問を呈し、生前の千奈ちゃんの動画を見て謝罪の思いを吐露した。

公判ではバスのドライブレコーダーの映像が確認され、検察は前園長に2年6ヶ月、元クラス担任の女性に1年の禁錮を求刑。福岡での同様事件から1年で再び起きた置き去り死事件に重い過失として対応を問うた。

【牧之原バス置き去り】「とてつもない喪失感と絶望感」両親が心情陳述 静岡地裁公判

 傍聴席からは見えないついたての向こうから、おえつが漏れた。2年前の9月、牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」の送迎バスで河本千奈ちゃん=当時(3)=が置き去りにされ、熱中症で死亡した事件で、13日に静岡地裁で開かれた論告求刑公判。被害者参加制度を利用して出廷した千奈ちゃんの両親はそれぞれ心情を陳述し、愛する娘を失った悲しみや怒りを涙ながらに訴えた。

 「とてつもない喪失感と絶望感に襲われています」。千奈ちゃんの母(41)は冒頭、現在の心境をこう述べた。就寝時、手を握ると安心して眠ったこと、「ママ抱っこ」と言って甘えてきたこと―。かつての愛くるしい姿を思い描き、「千奈は私の宝物」と改めて強調した。

 2歳になった次女が泣いてぐずると、千奈ちゃんがバスの中で助けを求めていたことを想像して取り乱してしまうという。「なぜ安全に対する意識を持って業務を行えなかったのか、なぜ違和感に気付いていながら行動しなかったのか」。事件当日バスを運転していた前園長の増田立義被告(74)、元クラス担任の女(48)に、強い疑問を向けた。

 父(40)は事件当日の両被告の対応や、公判での供述を踏まえて「子どもの安全や命を軽視している」「反省をしていない」と淡々と指摘していたが、次第に涙で声が続かなくなった。生前の千奈ちゃんの動画を見て「私は謝ることしかできない」と沈痛な思いを吐露した。両被告は視線を下げたまま。傍聴席ではすすり泣く声が聞かれた。

 公判の冒頭ではバスのドライブレコーダーを証拠として取り調べ、法曹三者がイヤホンを装着して映像を確認した。検察によると、映像は事件当日の朝、バスが園舎前に到着し、千奈ちゃんを除く園児が降車した後、駐車場に移動して増田被告がエンジンを切るまでの約7分間。千奈ちゃんの姿は映っていないが、別のバスが近づいてくるのに気付いて「あっ、ケーキバス」「後ろから来てるよ」と声を上げていた。3人の裁判官は神妙な面持ちでモニターを見つめ、音声に耳を傾けた。

福岡の同種事案から1年で〝再発〟 検察「過失は重い」

 13日の公判で前園長の増田立義被告に禁錮2年6月、元クラス担任の女に禁錮1年を求刑した検察。静岡地検の小長光健史次席検事は閉廷後の記者会見で「同種事案があり、注意喚起がなされている中で起きたことがポイント」と述べ、2021年7月に福岡県で送迎バスへの保育園児置き去り死事件が起きていた事実を重く捉えたことを示唆した。

 福岡の事件では、バスを運転した当時の園長に禁錮2年、執行猶予3年(求刑禁錮2年)、降車補助の保育士に禁錮1年6月、執行猶予3年(求刑禁錮1年6月)の一審福岡地裁判決が確定している。小長光次席検事は「過去の事案と比較はできない」としつつ、両被告の主な求刑理由として「取り返しの付かない重大な結果」「過失の程度が重いこと」「遺族への対応が十分とは到底言えないこと」を挙げた。