「特濃緑」の誘惑 美村里江のミゴコロ
新緑美しい今日この頃であるが、私の心模様はくすんでいる。出前でときどき頼む大好きなパスタがメニューから消えてしまったためだ。
出前を取ることは多くないが、夫の食事を気にしなくていい気ままな日は、自分で普段作らないものを頼むことが多い。「ジェノベーゼパスタ」もその一つである。
バジル、松の実、チーズとオリーブオイルで作るジェノベーゼソースは、比較的簡単に作れる。しかし私はバジルが好きなあまり、うっすら美しい緑色では飽き足らず、濃い緑、もはや黒に近く見えるほどのバジルを欲している。「大量のフレッシュなバジル」が必要な時点で、夏以外の季節に自炊するにはコストが高い。スーパーの小袋バジル1つでは到底足りず、結構な値段になってしまう。
そこで専門店で頼む方がいいとなるのだが、ここにもハードルがある。美しい緑のソースを熱々のパスタに絡ませ運搬すると、時間経過で熱が入りすぎて緑がくすんでしまうのだ。当然香りも飛ぶので、ただのオイル系パスタになってしまう。
そんな中、私が気に入っていたお店は、ソースと麺をセパレートした容器で届けてくれるので、色も香りもバッチリで、とてもおいしくいただいていたのだが…。
予兆はあった。半年前久々に頼んだ際、大きく変わっていてショックを受けたのだ。パスタは歯応えが弱く、ソースはボソボソと繊維質で色も薄く、まるで他の野菜で薄めたように香りも弱い。
物価上昇の煽(あお)りでコスト削減の模索中と想像したが、私のような濃緑のソースを愛する身からすると致命的な変化だった。実際に、その後一度食べたいなと思った夜があったのだが、前回のぼんやりジェノベーゼがよぎり頼まなかった。そうして案の定、メニューそのものから消えてしまったというわけだ。無念。
後継パスタを探そうと他店を試みてはいるが、バジルが少ない、乾燥バジルで論外など難しい。唯一少し離れたカフェのものが、調理後に多量のオイルを注いで加熱を食い止めるなど工夫も見られ美味だが、やはりあと一歩、好きだったジェノベーゼには及ばない。
こんなに執着するなら、窓辺にバジルの種とプランターをそろえる方が建設的だろうか…。ちなみに。抹茶、よもぎ餅、ささ団子、磯辺揚げの青のり部分すら、緑は特濃が好きである。