小説家三崎亜記さんがつづる、したたかに生き残る「絆創膏的社員」のススメ

AI要約

就活の自己PRの場面で「会社の絆創膏になります」という異色の表現を使い、絆創膏の生き残り戦略について考察する。

絆創膏が時代に合わせてアップデートされる中、常に新しい提案を行い、市場での競争力を保つことの重要性を述べる。

絆創膏の文字の意味から、「創造」と「傷つき」の対比を通して、絆創膏的社員像として新たな創造に挑む姿勢を示唆する。

小説家三崎亜記さんがつづる、したたかに生き残る「絆創膏的社員」のススメ

 こうした就活の自己PRの場面では、「私は会社の潤滑油になります」と宣言するのが定番でしょうが、私は敢(あ)えて言います。「私は会社の絆創膏(ばんそうこう)になります」と。

 衣紋掛(えもんか)けはハンガーに、とっくりセーターはタートルネックにと、古い言葉は次々と淘汰(とうた)され、置き換えられていきますが、そんな中、「絆創膏」という古臭(くさ)い言葉はアップデートされずに残り続けています。誰もが気軽に「バンソーコー」と呼んではいますが、漢字で「絆創膏」と書ける日本人が、果たしてどれだけいるでしょう?

 そんな真っ先に消えそうな言葉が変わらず使われている理由を、私は、絆創膏のしたたかな「生き残り戦略」だと考えます。絆創膏は地域によって「第二の呼称」が違うことでもおなじみです。九州ではリバテープやカットバン、東京大阪ではバンドエイド、北海道ではサビオなどなど…。そんな風に、第二の呼称を敢えて各地でバラバラに定着させることによって、絆創膏はアップデートの魔の手から逃れ、全国区での呼称の地位を守り続けているのです。私も御社に入社した暁には、絆創膏のように常にサバイバル戦略を考え、他社との厳しい生存競争を勝ち残っていける人材になれると自負しております。

 もちろん名前は絆創膏のままでも、中身は時代に応じてアップデートされています。絆創膏が、片や「目立つ」、片や「目立たない」と、両極端の進化を遂げていることはご存じでしょうか? 美容師やネイリストなど手を使う接客業の方には肌と一体化する透明な絆創膏が重宝され、逆に異物混入が問題となる食品製造業の現場では、すぐにわかる青色の絆創膏が普及しております。私もまた、顧客のニーズに応じた臨機応変な提案ができる絆創膏のような社員を目指したいと思っています。

 また、これからの社員に求められるのは、人口減と共に縮小してゆく市場で、いかに人々の消費意欲を喚起できるかでしょう。この点でも絆創膏は最近、エポックメーキングなアップデートが話題となりました。指を怪我(けが)して片手で絆創膏を貼ろうとして、両端がくっついて舌打ちした経験は誰もがしていますが、「そんなもんだ」と思うだけでやり過ごしてきました。そんな中、小学生の女の子が「絆創膏のパッドが端の方にあれば、両端がくっつかなくて便利だ」と思いついたのです。アイデアを形にした絆創膏が世界青少年発明工夫展で入賞を果たし、ドラッグストアチェーンにより、「指にまきやすい絆創膏」として商品化されました。

 結果から見れば「パッドを中央から端に移しただけ」ですが、誰もが「絆創膏はこの形」と思考停止していた中で、まさに、「コロンブスの卵」的な発明です。そんな風に、どんなに爛熟(らんじゅく)化した市場でも、新たなイノベーションを生み出せる絆創膏のような社員に、私はなりたいと考えます。

 絆創膏の文字を紐解(ひもと)けば、「絆」はつなぎとめる、「創」は傷、「膏」は膏(こう)薬で、つまりは「傷に薬を塗ってつなぎとめるもの」という意味合いです。「創」は「創造」の創であり、「傷」とは真逆のイメージですが、素材に切れ目を入れることが、ものを創り出すはじまりだからだという文字の由来を持っています。傷つくことを恐れず新たな創造に邁進(まいしん)し、消費者の心をしっかりとつなぎとめる…。それこそが、求められる絆創膏的社員像であると言えるでしょう。

 えっ? そんなに絆創膏が好きなら、絆創膏を作っている会社に就職しろって? ははは…。

 ◆みさき・あき 小説家。1970年、福岡県久留米市生まれ。久留米市役所に勤めていた2005年、小説すばる新人賞受賞作『となり町戦争』でデビュー。同作を含め直木賞に3度ノミネート。RKBラジオで放送された連続ラジオ朗読劇『博多さっぱそうらん記』が小説としてKADOKAWAから刊行。自身が持つYouTubeチャンネル「三崎亜記のミサキメグリ」では、動画を公開中。福岡市在住。