生活を豊かにしてくれる“本物のふつう”。地道なものづくりを貫くパターンオーダーの紳士靴。

AI要約

ハン シューメーカーの靴は、グッドイヤーウェルト製法によるマシンメイドながら、ビスポークと見まがうほど有機的なフォルムを持つ。

商品の持ち味を引き出す要素として、どんなに優れた素材や技術も使いどころを間違えると本来の良さが発揮できないことが示唆されている。

地道なものづくりを貫く人々を応援し、「本物のふつう」が生活を豊かにするという考えが示されている。

生活を豊かにしてくれる“本物のふつう”。地道なものづくりを貫くパターンオーダーの紳士靴。

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グッドイヤーウェルト製法によるマシンメイドながら、ビスポークと見まがうほど有機的なフォルムの「ハン シューメーカー」。現在は甲府市のアトリエか、国内外で開催されるトランクショーにて注文が可能。

右から¥147,000、¥160,000、¥160,000(すべてHAN SHOEMAKER 055-206-1213  atelierrikka.shoe@gmail.com)

能書きばかり並べ立てる今どきのラーメンよりも、名もなき町中華で食べるふつうのラーメンのほうがおいしかった……みたいな現象に、近頃やたらよく出くわす。どんなに優れた素材や技術も、その使いどころを間違えたら、本来の持ち味は発揮できない。だとしたら、その決め手となる要素ってなんだろう?

そんなときにInstagramで目にしたのが、韓国人靴職人のハンさんが甲府市で主宰する小さな工房「ハン シューメーカー」の紳士靴だった。いわゆるパターンオーダーで、全くけれん味のないふつうのデザインだけに、どんな靴かと聞かれると困ってしまう。でもこの靴には、ふつうじゃないオーラを感じるのだ。その秘密は革? 縫製? それとも木型?

「ハンさん、どうしてあなたがつくる靴はきれいなんですか?」

そんな素人丸出しの質問をハンさんにぶつけたら、彼は笑いながら「ぼくが目指すのはふつうの靴なんですよ」と教えてくれた。もう少し具体的に伺うと、「徹底的に角を落とし、すべての曲線をつなげるよう心がけている」とのことだ。言うは易しだが、これをやり切れているシューメーカーは世界的に見ても数少ない。だってどれほど手間をかけても、気付く人はそう多くないから。もしかして、あのとき町中華で食べたラーメンにも、そんな哲学やこだわりが隠されていたのかな?

目先のキャッチーさばかりもてはやされる昨今にあって、そうした地道なものづくりを貫くのは茨の道かもしれないが、だからこそぼくは彼らを応援したい。だって〝本物のふつう〟は、ぼくたちの生活を豊かにしてくれるから。

文・山下英介

Eisuke Yamashita

ライター・編集者。『MENʼS Precious』などのメンズ誌の編集を経て、独立。現在は『文藝春秋』のファッションページ制作のほか、webマガジン『ぼくのおじさん』を運営。

Photograph: Yuki Saito

Styling: Hidetoshi Nakato (TABLE ROCK.STUDIO)

Text: Eisuke Yamashita