「サイコパスはコミュ力が高い」「一見、善人に見える」現代社会に溶け込んだ“反社会的人格者”の被害から、自分を守るための方法とは

AI要約

サイコパスは人口の1%にしか存在しない少数派であり、周囲に他のサイコパスが少ない環境で利点があるとされる。

「頻度依存選択」という遺伝子の環境依存性がサイコパスの存在を説明する考え方があり、その遺伝子は少数者有利の性質を持っている。

進化心理学的な視点からみると、サイコパス傾向を促進する遺伝子は集団中での頻度が上がると適応度が低下し、サイコパスは少数派にとどまると考えられている。

「サイコパスはコミュ力が高い」「一見、善人に見える」現代社会に溶け込んだ“反社会的人格者”の被害から、自分を守るための方法とは

〈マザー・テレサもスティーブ・ジョブズも実は「サイコパス」って本当…? 人口の1%しかいない“反社会的人格者”の知られざる正体〉 から続く

 人間は、身体だけでなく、「心」も長い年月をかけて進化を遂げてきた。しかし、「うつ」や「陰謀論」など、人間の心のネガティブな性質は、進化の過程で淘汰されることなく、今現在も私たちを苦しめている。人間の“心のダークサイド”はどのように私たちに影響を及ぼしているのだろうか?

 ここでは、生物学研究者の小松正氏が、進化心理学の観点から人間の“心のダークサイド”について綴った『 なぜヒトは心を病むようになったのか? 』(文春新書)より一部を抜粋。近年注目を集めるようになった「サイコパス」とは、どのような人を指す言葉なのだろうか?(全2回の2回目/ 1回目 から続く)

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 集団中のサイコパスの頻度は1%程度と言われており、かなりの少数派です。サイコパスにとっては、少数派であることがむしろ有利になるという仮説があります。サイコパスにとって都合がよいのは、他人をすぐに信頼するような善人が多くいて、サイコパスが彼らを容易に利用できる状況でしょう。

 サイコパスのことを「社会的捕食者」と呼ぶことがありますが、いわば周囲が獲物だらけというわけです。反対にサイコパスにとって都合が悪いのは、周囲の人間も自分と同じサイコパスだったという状況です。搾取する相手を見つけ出すのが難しくなります。

 このように、サイコパスにとっては周りに自分と同じサイコパスが少ない環境のほうが望ましいわけです。

 少数派であることが有利になる性質の存在は、古くから進化生物学における重要な研究テーマでした。今日では、こうした性質を生み出す自然選択のタイプがあることがわかっており、「少数者有利の頻度依存選択」と呼ばれています。

「頻度依存選択」とは、集団のなかで、ある形質を持つ個体がどれくらいの頻度で出現するかによって、その個体の適応度が左右されることを指します。

 まず、ある性質を生み出す遺伝子について、その遺伝子の頻度が低い集団においては、その遺伝子を持つ個体の生存や繁殖の機会が高まり、逆に遺伝子の頻度が高い集団においては、その遺伝子を持つ個体の生存や繁殖の機会が低くなるという状況を仮定します。

 頻度依存選択が働く遺伝子は、その遺伝子頻度が低いときには、個体の適応度が高いため、世代を経るにつれて遺伝子頻度が徐々に増加していきますが、ある程度遺伝子頻度が高くなった段階で個体の適応度が低くなり、遺伝子の増加がおさまることになります。

 サイコパスは少数者の場合に有利となることから、サイコパス傾向を促進する遺伝子には少数者有利の頻度依存選択が働き、その結果として、サイコパス傾向を促進する遺伝子は集団中での頻度が頭打ちとなり、サイコパスは少数にとどまっている、という説が有力視されています。