柳田邦男さん翻訳の絵本「ヤクーバとライオン」 真の勇気とは? 困難な問題でも自分で考え抜くことが大事

AI要約

柳田邦男さんが翻訳をしたフランスの絵本『ヤクーバとライオン』は、命を守ることと殺さないことをテーマにした作品であり、20年前に出会い、翻訳の過程を語る。

原作の1巻では戦士となるヤクーバがライオンとの戦いを通じて命を考えさせられ、2巻では更なる深みが描かれる。殺すことに疑問を持つ原作者が描く物語は、読者に考えさせる哲学的要素が強い。

ライオンを殺さずに命を守る勇気を持つヤクーバの姿や周囲の反応が物語のクライマックスとなり、作者の哲学的な視点が表現されている。

柳田邦男さん翻訳の絵本「ヤクーバとライオン」 真の勇気とは? 困難な問題でも自分で考え抜くことが大事

――アフリカのとある村。成人した少年たちが戦士となる特別な日だ。少年ヤクーバは勇気を示すため、ライオンと戦って倒さなければならない。砂漠でついにライオンに出会ったのだが……。柳田邦男さんが翻訳をしたフランスの絵本『ヤクーバとライオン』(講談社)は、「命を守る」「殺さない」をテーマにした、力強い作品だ。モノクロで表現された世界からは、ただならぬ雰囲気が漂う。

 原作の1巻に出会ったのは、今から20年くらい前です。パリの出版社サイユ・ジュネス社を訪れたとき、編集長のマトーさんに見せていただきました。フランス語版のほかに、英語版も出ていて、その場ですぐに読みました。絵本らしからぬ絵本というのかな。哲学的な視点も入っていて、すごいなと思いました。ぜひ翻訳したいと申し入れたら、喜んでくれて。南フランスの田舎に住んでいる作者のデデューさんの自宅まで案内してくださいました。デデューさんはその場で、快く翻訳を許諾してくださいました。

 東京に帰って、講談社の編集者Sさんに相談したのですが、最初は日本で売れるかどうか難しいかもしれないと言われました。モノクロで描かれている上に、余白も多く、文字だけのページもあるし、日本の絵本のマーケットにはなじまないと。それでもSさんの努力でなんとか、出版計画に入れてもらえて、翻訳に取り組んだのです。

――戦士として立ち向かうヤクーバの前に現れたのは、傷ついたライオンだ。立ちすくむヤクーバに、ライオンは語りかける。「わしを殺して立派な男になったと言われるのか。それとも、殺さずに、気高い心をもった人間になるのか」。人として、どちらを選択するのかを問われたのだ。

 本作の原点は、湾岸戦争です。戦うことの意味に疑問を感じたことが、書くきっかけになったそうです。僕が作品に出会ったときは、1巻しか出版されていませんでしたが、日本での1巻の出版が決まったころ、2巻が出たんです。それじゃあということで、2巻セットで出すことにしました。原作のタイトルには副題はついていないのですが、僕は日本の読者に親しみを持たせるために1巻は「勇気」、2巻に「信頼」と副題をつけました。子どもには少し難しい言葉だし、絵本のタイトルとしては硬いかもしれないけれど、チャレンジしたいと思って。マトーさんに相談したら、「いい副題です。フランス語版でも最初からつけたかった」と言ってくれました。そのくらいよく内容をつかんでくれたって。デデューさんも喜んでくれました。

――当初、原作者に続編の発想はなかったというが、2巻通して読むことで、より話の深まりを感じられる。

 2巻は、1巻の日本語訳が決まってからすぐにできたのです。最後の場面は、崇高な精神性というのかな、そういうものを感じますね。うまい展開にもっていったなと思います。「殺さない」というのが、この作品のテーマ。ヤクーバは、ライオンを殺さなければ、意気地なし扱いをされることをわかっていたけれど、殺さなかった。周囲から冷たくされ、追いやられるように牛の世話係にさせられる。つまり、命ある者の“いのち”を守る勇気の代償として、自分は社会的地位や名誉、尊敬などを全て失ってしまう。それでも命を守る。デデューさんは、哲学的なことを作品に忍ばせる人です。愚直な説話にしたら、子どもにお説教みたいに受け止められてしまうけど、そうしないで、戦争と平和、暴力、命、いろんなことを考えさせる。フィクションだからこそ、この物語が語れるのだと思います。