中国軍機の領空侵犯。その背景には米中間の対立に伴う摩擦も【親子で語る国際問題】

AI要約

2024年8月26日、中国軍のY9情報収集機が日本の領空に初めて侵入。航空自衛隊が警告を発するも無視し、中国側は謝罪せず。

政治力学の変化により、米中対立が先鋭化し、日本と中国の摩擦が表面化している。

日本は台湾有事への懸念が高まり、半導体分野で中国に対する輸出規制を実施。日中関係には大きな影響を与えている。

中国軍機の領空侵犯。その背景には米中間の対立に伴う摩擦も【親子で語る国際問題】

2024年8月26日、長崎県五島市の男女群島沖上空で、中国軍のY9情報収集機1機が日本の領空内を飛行。中国軍機による領空侵犯が初めて確認されました。この情報収集機は中国大陸から東に向かって九州方面に飛行し、男女群島沖上空で複数回にわたって旋回し、その間に2分程度日本の領空に侵入したとされます。

航空自衛隊は無線を使い、領空に入ったり接近したりしないよう再三にわたって警告を発しましたが、情報収集機はその後も1時間半余りにわたって周辺の上空を旋回し続けたと、防衛省が明らかにしました。

今回の領空侵犯について、日本政府は中国側に強く抗議し、再発防止を求めましたが、中国は「如何なる国の領空を侵犯する意図はない」と発表。謝罪や再発防止に努めるなどの発言はありませんでした。

今回の領空侵犯について、中国側の狙いは明らかになっていません。しかし、今日の国際政治、日本を取り巻く安全保障環境などを全体的に捉えれば、中国側には日本の反応を探る狙いがあったと言えるでしょう。

日本にとって中国は最大の貿易相手国であり、今日でも多くの日本企業が中国各地に進出しています。双方とも日中友好に努めることが重要であることは言うまでもありませんが、政治力学の変化を抑えることはなかなか難しいのが現実です。

ここで言う政治力学の変化とは、分かりやすく言えば、米国と中国の力関係の変化です。これまで長きにわたって日本周辺で軍事的な影響力を保持してきたのは米国ですが、21世紀以降、中国が経済的、軍事的に力を付け、国際社会で影響力を持つようになりました。そして、大国としての自信を付けた中国は、”自らのお庭(東アジア)”で力を保持する米国に対して挑戦的な姿勢を強く取るようになり、いわゆる米中対立は先鋭化していきました。

そして、台湾情勢や半導体覇権競争など、米中間で多種多様な問題が激しくなるなか、米国の同盟国である日本と中国の間でも、摩擦が表面化してきているのです。日本国内でも台湾有事への懸念が広がり、7月には日台の間で海上保安庁と台湾海巡署(海保に当たる)が千葉県の房総半島沖で互いの巡視船を出動させて合同訓練を実施しました。両機関が合同訓練を行うのは1972年に日本と台湾が外交関係を断絶して以降、初めてとなりました。

また、バイデン政権は一昨年10月、中国による先端半導体の軍事転用を防止するべく、先端半導体分野で大幅な輸出規制を強化し、日本に対しても同規制に追随するよう事実上の圧力を掛けました。日本はそれに応じ、日本の経済合理性とのバランスを取る形で、先端半導体の製造装置など23品目を輸出管理の規制対象に加えました。これは事実上、日本が半導体分野で中国に対して輸出規制を始めたことを意味し、中国側も日本への不満を強めています。

以上のように、今日の国際政治では大きな政治力学の変化が起こっており、それによって日本と中国は対立軸でお互いを観るという構図が鮮明になってきていると言えるでしょう。今回の領空侵犯も、その構図から捉えれば決して不思議な現象とは言えないでしょう。

①中国の情報収集機が、日本の領空である長崎県五島市の男女群島沖上空を飛行

②米中の対立が先鋭化し、政治力学が変化

③アメリカと同盟関係を結んでいる日本と、中国との摩擦も表面化している

【記事執筆/国際政治先生】

国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。