マンガ・コラムニスト 夏目房之介が語る『ビッグコミックオリジナル』創刊50周年「作家の同時代感覚と漫画市場の拡大・成熟が見事に一致した、希有な例です」

AI要約

『ビッグコミックオリジナル』は、半世紀にわたり大人向けのストーリー漫画誌として成熟し続けている。

長寿連載作品や名作群によって読者を引きつけ続け、時代を超えた人気を誇っている。

編集長やマンガ・コラムニストも、現在も挑戦し続ける同誌の魅力と将来性を高く評価している。

マンガ・コラムニスト 夏目房之介が語る『ビッグコミックオリジナル』創刊50周年「作家の同時代感覚と漫画市場の拡大・成熟が見事に一致した、希有な例です」

1974年に月2回刊で『ビッグコミックオリジナル』(小学館)が創刊されて50周年を迎えた。前回に続き、半世紀に及ぶ同誌の歴史と魅力を繙(ひもと)く。

1974年に青年漫画誌として創刊。読者対象の枠を広げ、大人のストーリー漫画誌として成熟し、今に至る『ビッグコミックオリジナル』。

マンガ・コラムニストの夏目房之介さんは、同誌には、読者が卒業しない仕掛けがあるという。

「創刊された年から『浮浪雲(はぐれぐも)』『あぶさん』『三丁目の夕日』という長寿連載の3本柱が揃って連載されたように、読者がどんな人生の段階にあっても雑誌から離れず、吸引する力があります」

夏目さんが、同誌を代表する作品として他にあげるのは、

「社会の日陰を歩んできた敗者や挫折した人びとに薄暮の灯りを当てた『人間交差点』。多くの読者を包み込む包容力のある漫画のひとつの完成形です。作画を担当した弘兼憲史さんが、その連載終了からしばらくして始め、現在も連載されている『黄昏(たそがれ)流星群』は、読者の年齢上昇に伴い、黄昏れゆく同世代読者の社会的境遇や心情に寄り添い、シニアが読む大人漫画の領域を開拓します。作家の同時代感覚と漫画市場の拡大・成熟が見事に一致した、希有な例ではないでしょうか」

大人が読むに堪えるテーマと語り口によって新境地を開いた名作は、いずれも長寿連載となっていく。そのひとつで、1990年から作者が急逝する2022年まで長期連載された『風の大地』(原作・坂田信弘/作画・かざま鋭二)にまつわる逸話を、夏目さんが披露する。

「近所の喫茶店で、私より少し年上のマスターが同い年の常連客と『風の大地』の話を年中していたんですが、大会のワンラウンドを1年がかりで描き続けても読者は飽きがこないというんです。それほど安定感のある語り口が技術的にも磨かれる一方で、受け手の側も多彩な物語(フィクション)をみずからの境界に引きつけて楽しむ余裕や見る目が備わったということでしょう」

夏目さんがこよなく愛する落語のような、語り芸の典型をきちんと押さえた同誌名作群の系譜を継ぐ“保守本流”というべき作品が、連載18年となる『深夜食堂』だ。

同誌の菊池一編集長が、半世紀に及ぶ来し方と今後の抱負を語る。

「『釣りバカ日誌』や『三丁目の夕日』をはじめ、長寿作品が多いのは事実ですが、いずれも初めから長寿を狙ってスタートしたわけではありません。作者と作品に、時代を超えて長く読者に愛される生命力が備わっていたことが、結果として長寿につながったのだと思います。いずれの作品も時代の申し子であり、たえず“今”を捉えようと挑戦する試行錯誤の中から作品が生まれ、時代をまたぐ歴史的傑作へと成長するもの。今後も、弊誌は時代に挑戦する姿勢を失わず、たゆまず前進していくつもりです」

解説 夏目房之介(なつめふさのすけ)さん

(マンガ・コラムニスト、73歳)

1950年、東京生まれ。青山学院大学卒業。出版社勤務を経て、漫画、漫画評論、エッセイなど様々な分野で活躍。著書に『マンガに人生を学んで何が悪い?』『手塚治虫の冒険』など。1999年、漫画批評の業績に対し手塚治虫文化賞特別賞受賞。

取材・文/山田英生

※この記事は『サライ』本誌2024年8月号より転載しました。