キーワードは「曲がるSUV!」 カイエンに加わったスポーツ版、GTSはどんなポルシェだったのか?【エンジン蔵出しシリーズ】

AI要約

ポルシェ・カイエンGTSは、ポルシェが高級SUV市場で成功を収めるために展開した戦略モデルで、第2世代のカイエンシリーズに加わったスポーティなモデルである。

新たな市場進出に成功し、爆発的なヒットを記録したカイエンが、GTSとして更なるスポーツ性を追求している。市場分析の結果、Sとターボの間にニッチがあることが見極められ、GTSというポジショニングが生まれた。

カイエンGTSは、専用開発されたシャシーを持ち、ターボの外観とSの性能を組み合わせて独自のスポーティな性格を持っている。

キーワードは「曲がるSUV!」 カイエンに加わったスポーツ版、GTSはどんなポルシェだったのか?【エンジン蔵出しシリーズ】

ご存じ中古車バイヤーズ・ガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の過去の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回は、2008年2月号に掲載されたポルシェ・カイエンGTSの記事を取り上げる。第2世代になっても好調な売り上げを続けていたポルシェ・カイエンに、新たに加わったスポーティ・バージョンのGTS。ポルシェ自ら、飛び切りスポーティなカイエンと謳うそれにポルトガルのファロの峠道で試乗したリポートだ。

◆新たな市場

ポルシェはいまや、世界でもっともマーケティング・リサーチが巧みなカー・メーカーに変身したようだ。

専業スポーツカー・メーカーだったポルシェが、高級SUV市場に勝機があると睨んで、カイエンをリリースしたのが2002年。賛否両論渦巻くなか、結果的には誰もの予想を超えるほどの爆発的ヒットとなり、ポルシェの屋台骨を支える柱のひとつに成長したのはご承知の通りだ。

デビュー時の衝撃が薄らいできた2006年末には、すかさずフェイス・リフトを断行して、第2世代を投入。おかげで快進撃は止まることなく、ライプツィヒ工場では、今でも生産限界ギリギリの1日180台がつくられ続けているという。

しかも、カイエンがポルシェにもたらした恩恵はそれだけではなかった。スポーツカーだけでは絶対に無理だったロシアや中国、中東といった新市場への進出の足掛かりとなったのだ。なにしろ、目下ロシアと中国で販売されるポルシェの8割をカイエンが占めているというだから。

その大ヒット・シリーズに追加された新グレード。これもまた、綿密なマーケティング・リサーチによって導き出された戦略モデルにほかならない。ポルトガルのリゾート地、ファロで行われた国際試乗会のプレス・カンファレンスでの説明によれば、市場分析の結果、カイエンSとターボの間に、まだひとつポジショニングの可能性があることがわかったのだという。Sよりもスポーティなモデルが欲しいけれど、ターボではトゥー・マッチと考える人をターゲットにした文字通りのニッチ(すき間)モデル。それこそが、このカイエンGTSというわけだ。

◆専用開発されたシャシー

しかし、ポルシェが本領を発揮するのはここからで、単に足して2で割ったようなモデルをつくるのではなく、まったく新たな性格づけがなされている点にこそ、GTSの真価値はある。すなわち、見かけはターボで、中身はSというのがGTSの大雑把な成り立ちだが、そこにポルシェは、カイエン・シリーズの中でもっともスポーティなモデルという付加価値を与えたのだ。

その最大のポイントは、このモデルのために開発された専用シャシーにある。カイエンSより車高が24mm低められ、ネガティブ・キャンバーを強めるなど、ジオメトリーも変更された足回りには、カイエン・シリーズとしては初めて、コイル・スプリングに電子制御の可変ダンパー、PASMが組み合わされている。

オプションのエア・サスペンションを装備した場合でも、同装備のカイエンSより20mm低くなっており、さらにアクティブ・スタビライザーを使ったロール制御システムのPDCC(ポルシェ・ダイナミック・シャシー・コントロール・システム)を装備することも可能だ。

タイヤ&ホイールは、21インチを標準装備。カイエンSやターボが装着する18インチより遥かに巨大なそれを納めるために、ホイール・アーチは左右14mmずつ張り出している。

結果として、外観はターボよりさらにアグレッシブな印象となっているが、よく観察すれば、ウインドウまわりがブラックアウトされるなど、細部における独自のデザイン変更が施されていることにも気づくだろう。

エンジンは、カイエンSの自然吸気4.8リッターV8直噴をベースに、吸気システムに改良が施されている。すなわち、Y字型エアガイドの断面積を拡大し、さらにスロットル・バタフライの径も76mmから82mmに大径化して、エアの吸入量を増加。結果として、51kgmのトルクはそのままに、20psアップの405psを300回転高い6500回転で得ている。

一方、ギア比は6段MT、6段ティプトロニックSともにカイエンSと同じだが、最終減速比が3.55から4.1にローギアード化されており、その結果、6段MTの0-100km/h加速はSより0.7秒速い6.1秒、最高速は253km/hというのがメーカー公表値だ。

◆後席もスポーツ・シートの理由

私が最初に試乗したのは、コイル・スプリングにPASMを装備し、トランスミッションは6段MTという一番ベーシックな仕様だった。

ボディ同色の飾りがついたハンドルを引いてドアを開けると、シルの部分にステンレス・スティール製のエントリー・ガードが着けられ、カイエンGTSのロゴが誇らしげに刻み込まれている。運転席は、アルカンタラとレザーのコンビからなる専用スポーツ・シート。そのホールド感とラグジュアリー感の絶妙なバランスに、まずは感心させられた。

ルーフのライナーにもアルカンタラが奢られており、スポーツ・モデルでありながら、上質な高級感にあふれている。リア・シートまでもがサポート部が張り出した独特の形状のスポーツ・シートになっているのに、ちょっと驚かされたが、その理由は後に判明することになる。

走り始めて印象的だったのは、とにかく足回りが極めて硬いこと、そして、エンジンがまるでスポーツカーのように気持ち良く回ることだった。PASMが装備された足回りは、コンフォート、ノーマル、スポーツの3つのモードを選択できるが、どれを選んでもあまり変わりないほど硬いし、21インチ・タイヤは容赦なく路面のノイズを室内に伝えてくる。

一方、エンジンはとりわけ4000回転から上の吹け上がり感が素晴らしく、回転落ちも速くて、飛び切りシャープな味付けになっている。標準装備されるスポーツ・スイッチを押すと、アクセレレーターのコントロール・マップが切り替わり、レスポンスが良くなると同時に、エグゾーストの背圧が低められ、明らかにノーマルとは違うドライでビートの効いた低音をあたりに響かせる。ポルシェにしては珍しく、ここまでやるか、というくらいの演出だ。

やがて延々とワインディングが続くファロの峠道に差しかかると、カイエンGTSは、これまでの大型SUVの常識を覆す、スポーツカーのようなハンドリングを披露し始めた。

とにかく、よく曲がる。ブレーキを残しながらコーナーに入っていくと、お尻がククッと外に出て、ノーズが内に入っていく。コーナリング中だって、スロットル・コントロールでノーズの向きを自在に変えることが可能だ。その動きは俊敏かつ過激で、ドライバーはともかく、助手席やリア・シートに座っている人は容赦なく振り回されることになる。リアもスポーツ・シートじゃなかったら、とても耐えられないほどに。

試乗の後半は、エアサスにPASM、PDCCまでフル装備した6段ティプトロニックS仕様に乗り換えた。足回りが固められているのは同様だが、エアサスだと当たりが柔らかく、乗り心地は格段に良くなる。しかも、PDCCがついていれば、コーナリング中のロールはほとんどなくなり、といって突っ張るわけではないから、助手席や後席の人にも優しいはずだ。それでいてスポーティなハンドリングが失われるどころか、こちらの方がお尻の出方も自然で、バランスはいいように思えた。

ひとつだけ残念だったのは、ATとの組み合わせだと、エンジンを回す楽しみがかなり減じてしまうことだ。あのシャープな切れ味は、トルコンを介してでは味わえない。

とはいえ、これは1000万円を超える高級SUVなのだ。どこまでも過激に行きたいなら断然コイル・スプリングのMTだが、財布さえ許せばエアサスにPDCCもフル装備したATがベスト・バイだと思った。

文=村上 政(ENGINE編集部) 写真=ポルシェ・ジャパン/ポルシェAG

(ENGINE2008年2月号)